*恋人設定





ふわりふわり、眠りに落ちるちょうど夢のはじまりに。
控え目に感じた隣りの全蔵の温度で、あたしはその狭間から抜けられなくて。

(…なまえ)

呼ばれた愛しい声。
眠くって仕方なくて、返事は出来なかったけど。
隣りにいる。
そんな安心感で満たされていたのに。

「…!」

突然真っ暗になった。
キョロキョロと辺りを見回してみても誰もいなくて、とにかく真っ暗で、灯りなんてひとつもない。
さっきまでここにあったあのぬくもりさえも、どこにもなくなっていた。


「…っ!」

声にならない声でハッと目が覚めた。
心臓がバクバクうるさくて唇は微かに震えていた。

「どうした?」

突然聞こえた声にびくり。肩を揺らしたけど、その声が聞こえた瞬間ひどく安堵した。

「こわい夢、見た。かも」

振り向けばさらに安心して、自然と伸びた手は迷いなく全蔵の首に絡めて。
ぎゅ。
引き寄せれば、全蔵の匂いでいっぱいになって。
なんだか無性に泣きたくなった。

「子供か、お前は」

その低く擦れた声が好き。
今だけは別に呆れられても構わないと思った。
その声ひとつで、あたしのなかのワケの分からない不安の塊は一瞬にして砕け散った。

「全蔵」
「ん?」
「一緒にいてね」
「なんだよ急に」
「…わかんない、けど」

言い終わる前に、抱きついた腕を強めてみた。
もっともっと、近くで感じたかったのと。
じわりとちょっとだけ目尻に溜まった涙が恥ずかしかったから見えないように全蔵の首元に顔を埋めた。

「…ったく。眠ィし、苦しいっつーの」

呆れられたような声がしてグサリと胸が痛かった。暗闇の中、あの誰もいない空間が思い出されて。あたしと全蔵の温度差がどんどん広がっていくのかな…そう思って力を込めた腕を少し緩めたら。

「けどまぁ、一緒にいてやらんことはねぇ」

緩めた腕をぐいっと引っ張られてさらにさらにくっついて。
腰に回された手がしっかりとあたしを抱き寄せた。

「全蔵……素直じゃないね」
「お前もな」

(一緒にいてやるって言えばいいでしょ)
(抱き寄せられて嬉しいくせに)

クスクスと二人で笑い合ってお互い呟いた時にはもう唇が触れ合うくらい近かった。
温度差があると思っていたあたしとあなた。
その差は一つもなくて隙間すら作らせないというように、あたしたちは深く深く口付けて。


「ほら、これで怖い夢なんざ見ねえだろ」

抱き寄せられた時背中にまわっていた手が今度はあたしの頭に移動してポンポンと子供をあやすように撫でる。
もう子供じゃないというのにあたしには心地よすぎるようで、全蔵の胸元ですぐに瞼を下ろしてしまった。

淡い夢の中で、触れる



end.


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