*学パロ
炎天下なのに、暑く感じない。
照りつける太陽のわりに風が涼しいからかな。
それとも心が、寂しいから?
痛いのに熱もなく。
冷たいまま。
急に別れるなんて、頭がついていかなかった。
だって昨日まで普通で優しくて。次のデートの約束までしたのに。
隣りには他のクラスの女の子がいた。
ひっぱたいてやろうかと思ったけれど、不安げに揺れるその子の瞳から涙が浮かんでいたからなんだか手を出す気にもなれなかった。
ごめん、
って呟いた彼と隣りの女の子は同じ表情をしていた。
苦しそうで、泣きそうで。
多分あたしがいなかったらこの二人は笑っているんだろうなって思ったら。
何も言えなくて。
「…なんて、お人好しだったかなぁ」
独り言は、青い空に消えていく。
そう思ったのに、ふいに掠めた煙草の匂い。
この場所に不相応な匂いだからこそ、すぐに分かった。
「辛気くせーなァ」
横目でちらり、白衣が見える。
いつも何かと相談してた、先生じゃないみたいなあたしの担任。
「服部先生、今日も相談に乗ってくれるー?」
「断る、めんどくせぇ」
「えー」
そんなふうに言うくせに、あたしの隣りに何気なく座って、あたしと同じように空をぼーっと眺めて。
いつでも話を聞いてくれるような雰囲気を作ってくれる。
いつも、そんな人。
「せんせー、人生うまくいかないね。何でかなぁ」
「相談は聞かねえっつってんだろ」
「あたしの何がいけなかったのかなぁ」
「シカトか、おい」
「先生、あのね、あたし、ね…」
振られちゃったんだ。
言おうとした瞬間、頭の上に乗せられた服部先生の手。
ふと見上げれば、相変わらず瞳が見えないくらい長い前髪が風に揺れている。
頭の上の手が、くしゃりとあたしの髪を撫でた。
「相談は聞かねえが、肩ぐらいは貸してやる」
要るのか、要らねーのか?
言葉は乱暴だけど、先生の声音は今までで一番優しくて。
「要るっ!」
言った瞬間に、ぽたりと流れた涙がアスファルトに染みをつけた。
でもその染みはひとつだけ。
くしゃりと撫でていた手が背中に回ったのはすぐあとのこと。
引き寄せられた場所は、肩なんて言ったくせに、そこは先生の腕の中。
ぎゅっと抱きしめられて、耳元で先生の息を感じて、少しだけドキドキしたなんて。振られたのにゲンキンだなって思ったけれど、今はもう少し。
そのぬくもりで、寂しさを埋めてほしかったから。
「鼻水つけんなよ」
「いっぱいつけとくね」
すり寄るように寄りかかったのはそこがすごく心地良かったから。
その理由を今は気付くことのないあたしは、アスファルトじゃなく先生の胸にたくさんの涙の染みをつけた。
必然じゃなくていい
勢いなだけでもいいんだ。その涙の意味なんざ早く忘れてしまえよ。
肩だけじゃ物足りなくて思わず抱きしめてしまったこの手が一番正直だって、早く気付いてしまえばいいのに。
end.