ひんやりとした空気がなんだか肌寒くて隣りのぬくもりを求めて手探りに手を伸ばした。
すぐにその求めていた温度にありつけてぴとりとくっついて。
たぶん、もう外は明るい。
小鳥(すずめ?)のさえずりだって聞こえるけれど、なんだか今日は体がだるくて起きる気にはならなかった。
(なんか昨日は………いつもと違った気がする)
瞼を下ろして、昨晩のことを思い出した。
鋭い瞳、力強い手で荒くあたしを抱き締めて。
時折切なげにあたしを見つめた。
(…なにか、あったのかな…?)
心配になってもぞもぞと布団の中から顔を出せば、瞳を閉じたカカシ先生のきれいな顔。
昨日の様子はまるで滲み出ていない、いつもの優しい表情。
その白い頬に触れようと手を伸ばした時、ぴくりと眉間にしわが寄った。
「ん…」
「せんせ、」
「あ…起きてたの?おはよ」
まだ片っぽの瞼を下げて擦りながら眠そうな顔。
やっぱり昨日の先生は嘘みたい。
「ん?」
「えっ」
「どーしたの、朝から難しい顔して」
怖い夢でも見た?
そう言いながら、あたしの腰を掴んで引き寄せて。あったかい首筋に埋もれるようにすり寄ると思わず瞳を閉じてしまうほど心地良い。
「あ、あのね」
「んー?」
「先生、きのう、…なんか変だったなって」
先生の首筋に埋もれたままそう言えば、一瞬だけ返事が返ってこなくて。
「せんせ…?」
変なことを聞いてしまったのかと不安になって顔を上げてみたら、なんだか気まずそうにあたしから視線を逸らす先生。
「変ってどんなかんじに?」
「えっ、なんかいつもと違うって言うのかな…あ、でも何でもないならいいの!変なこと言ってごめんね」
なんだか浮かない先生の表情に、慌ててさっき言ったことは訂正した。
触れちゃいけなかったかな…。それ以前に別にいつもと変わらなかったのかもしれない。
何も考えずに言ってしまったことを後悔して、居たたまれなくてベッドから出てしまおうかと思ったとき。
「おなまえ、」
俯いた頭の上から呼ばれた名前。すぐに見上げれば申し訳なさそうに眉尻を下げる先生がいた。
「先生…、」
どうしたの?
言う前にまた引き寄せられて、たちまち先生の腕の中。首筋から流れる銀色の髪がくすぐったい。
「お前昨日さ、」
「?」
「仲良さそうだったから」
「え?」
…シカマルと。
耳元で呟かれた言葉に驚いて思わずガバッと先生の首筋から離れてしまう。
「あれは!いのの話で盛り上がってただけで!」
「……」
なんだか言い訳みたいになってしまってさらに慌ててしまうあたし。
だって先生にこんなことを言われたのは初めてだった。それになんだか、あたしを見る先生の瞳がとても寂しそうで。
「先生、ごめんね、ごめん」
「………」
ぬくぬくとあったかい布団の中。先生のぬくもりを感じながら、だけど心の中は不安でいっぱいでドキドキした。
先生に嫌われちゃう…、そう思っただけで胸がぎゅうっと掴まれたみたいに苦しかったけれど。
…だけどその苦しさは一瞬にしてなくなった。
先生がいつもの優しい瞳を向けてくれたから。
それだけで。一瞬で。
「謝るのは俺の方でしょ」
「先生…」
「ごめんねおなまえ」
「……」
「おなまえは悪くないよ」
言いながら、あたしの頭を優しく撫でて。
「先生、やきもち、妬いてくれたの?」
「はは、あーまぁ…そんなかんじ」
「そう…なんだぁ」
「なに?嬉しそうだね」
「嬉しいよ、だって初めてだもん」
へへ、って笑ったら先生は困ったように笑ったけれどその表情がすごく可愛くて思わずその薄い唇に自分の唇をとん、と軽く押し付けた。
少しだけ目を丸くする先生。
にっこりと笑うあたしに釣られたのか、先生の瞳も弓なりを描いた。
すっかり太陽の光は上りきっている。
だけどあたしたちはまだ、布団の中。
(もういっかい、キス、したいなあ)
きらきら揺れる銀色の前髪をかき分けて先生の瞳を見つめたら、回された大きな手があたしの背中を優しく押して。
近付く鼻先。
ゆっくりと閉じる瞳と、とくんとくんと鳴る心地良い鼓動の音を聞きながら。
恥ずかしがり屋なあたしだけど、心配はいらない。
先生はいつだって言葉より先にそのぬくもりをくれるから。
きっと目を合わせたら言葉なんて溶けてしまうよ
本当は初めてじゃないんだ、やきもちなんてしょっちゅう。
だけどそんなかっこ悪いこと、言えないでしょ。だからコレで勘弁してちょうだいよ?
何も言わなくてもいいよ。
お前の欲しいものなら、全部あげるから。
end.