「あ、雪降ってる」


任務へ出掛ける時間が近付いて、慌てて支度をしていたら窓辺にいたカカシ先生がぽつりと言った。


「え〜」
「なに?嫌なの?」
「うん、だって寒いもん」
「へえ、お前雪好きそうなのに」
「どうして?」
「雪降ったらはしゃいでそうだし」


それって子供でしょって言ったら、お前ガキでしょって返ってきた。
膨れっ面をすれば、ははっと笑って遅刻するよーってあたしの頭をくしゃりと撫でて。

そうやってごまかして!って思うのだけれど、頭を撫でるその手に実際いつもごまかされてしまうあたり、やっぱりまだまだ子供だなぁなんて苦笑い。
今日だってやっぱりその手にごまかされて、膨れっ面がみるみるにんまりと頬が弛む。

「先生今日休み?」
「そ。部屋でぬくぬくあったまってるよ」
「わっ!嫌み!」

もう、と小さく先生の胸を叩くと先生はまた優しく笑って持っていたカップに口を付けた。

(いいなぁ、休み…)

休みだったら一緒にコーヒー飲めたのに…なんて思いながら、ドアを開ける。
外からは思いのほか冷たい風が吹いて、思わず身震いをした。


「じゃ、いってきま…」


寒さにぐっと耐えて一歩踏み出そうとした時、ふわりと後ろから首元にかけられたぬくもり。
くるりと巻かれたそれはさっき感じた寒さをたちまち和らげていく。


「マフラー…?」
「うん、今日は冷え込むみたいだからネ」


行ってらっしゃい。

ふんわりとした温かさに浸っていると、すぐそばで聞こえた先生の優しい声音と。そして右頬に微かに触れた先生の唇。

振り返ってみれば、少しだけ寂しそうな先生の瞳と目が合って。
自然と近付いてくるにつれてお互いの瞼がさがる。

(あ、コーヒーの味…)

伝わる、伝わる。
先生の味。

離れていく唇はやっぱり寂しいけれど。


「行ってきます」


伝えとった先生の味と温度を噛み締めたのなら、大嫌いな寒さでも頑張れそうな気がした。



二人の温度を味覚で味わうならば


冷たい空気の中、あったかい先生の唇がそれはそれは愛おしくて。




end.



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