雨に濡れた星 | ナノ
ポツリポツリと、一滴ずつ降っていた雨が突然強くなったのはついさっき。
傘は差していたものの、早く家路に着きたくて仕方がない。バス停でバスを待ちながらふと近くの公園が目に入った。
(うわ、ずぶ濡れ…)
何故か傘も差さずに、立ち竦んでいる人がいた。
(何してんだろ…)
見たところ、同じ学校の制服。でも校内では見たことないし、先輩かなぁ。
そんなことを思ったけれど、さほど気にならず雨が煩わしくて空をしかめっ面で見上げたら、パシャンパシャンと水の上を叩くローファーの音が後ろから聞こえた。
気付いた時にはその音もあたしを追い越して、目に見えたのは可愛らしいピンクの傘。
「ごめん!キバ!ってちょ…ずぶ濡れじゃん!」
そのピンクの傘はそのままあの立ち竦んでいた人に被せられ、同時にその人に話しかけたのは同じくらいの歳の女の人だった。
(あ、あの人知ってる…確か図書室にいる人だ)
友達から噂を聞いた。
図書委員の担当教師と仲が良くて三年の先輩に目をつけられてる人がいるって。確かあの人だ。
(てことは二年生か…)
そこまで考えていたら、やっと自分の待っていたバスが来た。
あの公園の二人のこともすっかり忘れ、煩わしい雨から開放されると意気揚々とバスに乗る。
空いている席に座り、はぁと安堵しながら窓の外を見たときだった。
「……!」
さっきの雨に濡れた人の顔がはっきりと見えたのはこのバスに乗って初めてだった。
ピンク色の傘の女の人が何かリボンのついた包みを渡している。
そのときの、彼の表情に。
何故かとくりと鼓動が鳴った。
それはそれは、幸せそうな笑顔だった。
煩わしい雨なんかに負けないくらいのその笑顔。
あたしに向けられたものじゃないのに、鼓動が鳴ったあとぐっと締め付けられる。
だけど、あたしの気持ちを無視するかのようにバスが早々と出発する。
(なに…あれ、)
いまだ締め付けられる胸を、思わず抑えてしまうほど。
窓に寄りかかって思い出す。…というより自然に思い出される彼の表情。
それから何日も何日も忘れない。
それが犬塚先輩の存在を初めて知った日。
「せんぱーい!おはようございまーす」
「げっ、またお前かよ」
7月7日、雨。
あたしはあの日から先輩に恋をしている。
next...
back