「おはよー」
「ああ」

いつものごとく挨拶のおかしい顔見知りの隣りに立てば、いつものごとく密度の高いこの場所にげんなりした。

「サスケー今日も座る場所ないの?」
「ないから立ってんだろ」
「だよねー」

隣りの幼なじみ(だけど一つ年上)のサスケに話し掛けて二人してため息を吐くのもこれまたいつものことで。
毎日毎日この満員電車は嫌になる。
おまけにドアに近い場所しかいつも空いていなくて。各駅に停車してドアが開くたびに冷たい風が外から入るもんだからカーデガンのポケットに両手を突っ込んでマフラーに顔をうずめた。

「両手塞いでていいのか」
「え?」
「お前転ぶだろ」

ドベだからな。しれっとした顔でそう言われて、なによ、と鼻息を荒くしたってその冷めた表情は変わらない。その白いほっぺを摘んでやろうかと考えた時、停車した電車のドアからまた冷たい風が入ってきた。

「あ…」

本来なら煩わしいこのドアの開け閉めも、ある一定の場所では煩わしさが別のものに変わる。
ドキンと波打つ鼓動を聞きながら目に写るもの。

満員電車だってすぐ分かる。きらきらした金色の髪。


「おー!サスケとなまえ!おはようってばよー!」

人目を気にせず呼ばれた名前にサスケは呆れたようにため息を吐くけれど、あたしは急激に鼓動が早くなる。

(今日も名前呼んでくれた…!)

なんて嬉しくて頬が緩むのを必死に我慢。
だって今まさに目の前に彼がいるから。

「なんだってばよ、二人とも。挨拶ぐらいしろってば」
「お前は朝からうるさいんだよ」
「朝は元気に!これ基本!」

二人が言い争っている中、あたしはといえば「お、おはようございます」と蚊の鳴くような声しか出なくて。
そんなあたしにナルト先輩はにっこり笑って、

「おはようってば!なまえ!」

と言ってくれた。
一気に熱が集中して寒くもないのにマフラーに顔をうずめる。

あのきらきらの笑顔は反則だよ…。

胸のドキドキはおさまらなくてもしかしたら聞こえちゃうんじゃないかってくらい大きく鳴っているから焦って仕方ない。

早く目的地に着いて欲しいけど、一つ上のナルト先輩と関わることが出来るのはこの朝の時間だけ。いつも意地悪で冷めた態度のサスケだけどこの時間だけは幼なじみということに感謝する。

「なぁサスケェ、今日キバんち行くんだけどよ、お前も行くだろ?」
「気が向いたらな」
「ったくオメーは付き合い悪ィってばよ」

サスケと話すナルト先輩を横目でちらちら見るのが毎日の日課。話が出来なくたってこうやってそばで見れるだけでも大満足で。

(あっ、今日はえりあしんとこ跳ねてる!かわいい)

なんて今日もその日その日にしか見れないナルト先輩が知れてますます恋心が膨れて一生懸命緩む頬を我慢している時だった。

ガクン。

突然不安定に揺れた電車内。ポケットに両手を入れていたあたしは当然のように体制を崩して。
今更だけどサスケの言う通り、両手を塞ぐんじゃなかったなんて後悔してももう遅い。

(やばいっ!)

思ってとっさに瞳をぎゅっと閉じたけど、感じるはずの痛みはいつまでたっても来なかった。
それどころか、ふわりと温かさを感じて。

「あっぶね!」

聞こえた声にたちまち瞳を開けて。

(う、うそー!!!)

電車内全体に響き渡るだろう叫び声を出したはずだけど、もちろん実際は心の中。

「大丈夫かっ?」

倒れ込むように、飛び込んだのはなんとナルト先輩の腕の中。
あたしをしっかりと支える腕と胸板の上から心配そうに覗く碧い瞳と目が合って危うく心臓が止まるかと思った。

「ご、ごっ、ごめんなさい!!!」

急いでそこから離れたけれど、体中の熱は上がるばかり。鼓動がこれでもかというほど早く鳴って苦しいのに、なにも知らないナルト先輩は。

「お前ちっこいから、気をつけろってばね」

なんて言いながら、クシャクシャとあたしの頭を撫でて優しく笑うから。
とどめなく鳴り響く鼓動をどうにか沈めようと頑張っていたけれど、もうなにも考えられなくなってしまうくらい、その笑顔に見とれてしまった。

スカイブルーに溺れて楽園を見よう


ふと隣りを見れば、だから言っただろ、と言わんばかりのサスケの呆れた目線。ポケットに両手を入れていたあたしはやっぱり後悔しつつも、目の前のナルト先輩に赤くなっていたら。

「わざとか?」

とニヤつくサスケの声が聞こえて慌ててバレないようにサスケの足をふんずけた。



end.



▽ナルト/学パロ/青春
という設定でした!
サスケくん友情出演すみません^^;!
素敵なリクエストありがとうございました☆




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