近くにいるのはいつも、あたしなのに。
キバの心の中にはあたしじゃないあの子がいる。
キバの一番近くにいるのは、あたしなのに、あたしじゃない。


「うわ、雨降りそうだぜ。急げなまえ!」


いつも通りの帰り道。
キバが言ったとおり、厚い雲が遠くの方から流れてくる。
前を走るキバの背中。
追い掛けてあたしも走り出した。


「腹減ったー」
「マック寄る?」
「いいぜー、お前のおごりな」
「絶対やだー」


言いながら、結局はキバが出してくれるのもいつものこと。
半分出すよって言っても、また今度なーって流される。
あたしにまで、紳士的でなくてもいいのに。
そんな可愛くないことを思ったり。


「お前のうまそー」
「あげないよ」
「ケチケチすんなって」
「あっ!」
「やっぱうめえ!」
「ちょ、あげないって言ったでしょー?!」


まっくもう。
怒ったふりをして、本当はキバが口を付けたハンバーガーが気になって。ゆっくりとそれをまた食べ始める。
どうせあたししか意識していないというのに、顔が熱くなってきた。

「そ、そういえばさ!どうなってるの?ヒナタとは!」

顔の熱を隠すように慌てて出した質問を口に出したとたん自己嫌悪。
だって目の前のキバが恥ずかしそうに俯いたから。

「別に普通だけどよ、この頃毎日話せてるっつーか…」

ほんのり染まった目尻の下。聞いたのは自分なのに耳を塞ぎたくなる。

「そっか、良かったじゃん」

にっこりと。
笑ったつもりだけど、あたしちゃんと笑えてたかなぁ?
もぐもぐハンバーガーを口いっぱいに頬張って、ぎゅーっと痛むのど奥に無理やり押し込む。
自然と出てしまう涙には絶対に絶対に気付かないふり。

いっそ、気付いちゃえばいいのに。
あたしが泣けば、優しいキバはきっと困るだろう。
その瞬間だけはあたしのことだけ考えてくれるでしょ?
だから、気付いちゃえばいいのに。


そんな、卑怯なことばかり。いつから考えるようになったかな。
嘲笑するように口元だけがうっすら笑っていると自分でも分かった。


「放課後とかさ、誘っちゃえばいいじゃん。ヒナタのこと」


もうどうにでもなればいい。
投げ出すのもあたしの悪い癖。
だけどそれ以上に、あたしのいないキバの中が悲しくて仕方ない。

でもね。

「いやそれはいい」

本当にすべてを投げ出せないのは。
キバを好きでいることをやめれないのは。

「お前と一緒に帰れねえってのもつまんねえからよ」

ニッと笑顔を向けてくれて。あたしを少しでも必要だって思ってくれているから。



鼻にソースついてんぞ!
とキバのごつごつした指先があたしの鼻に触れた。
ぎゅっと掴まれる胸の痛みは切ないけれど、だけどやっぱり好きだから嬉しくて。

「馬鹿だなぁ、キバは」
"でも大好き。"


小さく小さく呟いて、今は聞こえなくてもいいから。だけど少しでも届いて欲しくて。
キバと一緒に、にっこり笑顔。
今度は心から笑えた気がした。








その優しく笑うお前に、いつも触れたいと思っていることなんて。知らねえだろ。



end.




▽キバ/切甘/片想い
という設定でした!
勝手に学パロにしてしまったあげく甘い両想いになりきれずすみません^^; ヒナタを好きだと勘違いしているヒロインちゃんと、なかなか告白できず故意に勘違いさせてしまっているキバくんでした(^O^)
素敵なリクエスト、ありがとうございました!









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