「あーあっつー…」
学校から帰ってきて沖田の部屋に入ると、まるでサウナのように蒸し暑くなっていた。
沖田は慣れているようで何でもない顔をしてベッドに転がった。
あたしはというと、窓を全開に開けてそこらへんにあった雑誌でパタパタと顔を仰いでいる。
「なんでまだ夏じゃないってのにこんなに暑いの」
「お前がデブだからじゃねェか?」
「違います。沖田だって実は額に汗かいてんじゃん」
あ、マジだ。
そんなふうにわざとらしく言いながら、再びさっきまで読んでいた雑誌に目線を落とした。
沖田の部屋は天気の日はいつも暑い。
西日が入りすぎるらしいこの部屋に来るとあたしはいつも汗だくで。
だけど沖田は言うほどでもない。確かに額に汗が滲んでいるけど垂れるほどでもなく。
あたし、ホントにデブなのか?
思いながら自分の体を眺めて。
うーん、少し太ったかも。確か今日だって妙ちゃんにもらったチョコ食べたっけ…。
「あ!」
「なんでィ」
そこまで考えてからあることを思い出した。
その妙ちゃんにもらったチョコレート。まだ食べ終わってなくてバックに入れといたままだった。
あたしは沖田の問いにも答えずそそくさとバックを探してそれを取り出した。
案の定、手にしたチョコは持っただけでぐにゃりと曲がった。
「………」
「チョコですかィ?」
「うん…食べる?」
「ずいぶんと歪な形してまさァ」
包みをあけなくても元の形ではないことは明白。それでも意外と甘党な沖田なら食べると思い、寝転ぶ沖田の隣りに座る。
「開けられんのそれ」
「なんとか」
「ベッド汚すんじゃねぇぜィ」
「頑張ってみる」
慎重に包みを開けてみる。たらりと額から首もとに汗が落ちた。さっきのデブ話もどこへやら。必死にチョコがこぼれないようにと包みを開けた。
「あいた!ほらこれ!まだ食べれる!」
「えらい喜びようだな」
「だってほら!食べれるもん」
正直あとかたもなく溶けてしまってあとはゴミ箱へのパターンかと思いきや、若干小さくなってしまったけれど二人で半分できる大きさで。
手で触ると余計溶けるからこっちがあたしでこっちが沖田、なんて鼻歌を歌いながら決めていたら。
「ぎゃ!」
突然沖田の頭が伸びてきて、何事かと思ったときにはそこにはもうチョコレートがすべてなくなっていた。
「あー!!!」
「なんでィ」
「ちょ、なんで全部食べた?!」
「あん?オレに全部くれるんだと思ってやした」
「ちっがーう!半分こにしようと思ってたんだよ!」
あたしのチョコが……。
楽しみにしていた分今にも泣いてしまいそうになるくらい。
最近太ったかも、なんて思ったのは思っただけで反省なんてしなかった。
好きなものは好きなんだ!あたしも食べたかったのに!
あたしはそんな奴なんです。
もう誰に話しかけているのかさえも分からない。それくらい悲しみに浸っていたら。
「お前やっぱデブ気質でさァ」
という言葉と一緒に押しつけられた沖田の唇。
そこから甘い甘いチョコレートの味が広がって、それから沖田のきれいな瞳があたしを捉えた。
「なっ、は、恥ずかしいことしないでよ!」
「恥ずかしいことってなんでさァ」
口移しかよ!
突っ込みたかったけどその言葉を口に出すことも恥ずかしかった。
「こんなことなんざ毎日やってんだろィ」
「いや、だからって口で…」
言い終わる前に再び押しつけられた唇。
甘くて柔らかくて、チョコの味がしなくたって沖田のキスはいつも気持ちがよくて。
「満足かィ」
「んー、」
「そんな顔すんじゃねェ馬鹿」
どんな顔してんだろ?
聞く前に沖田に肩を倒されてぽすんとベッドに沈んでいく体。
チョコとか部屋が暑いとか、そんなことはもうどうでもよくなって。
考えることは、もう沖田のことだけ。
甘くて柔らかくて気持ちいい唇に絆されていく。
開けた窓からさらりと心地良い弱い風があたしたちの前髪を撫でた。
あまくとろけたその後でチョコ以上にもっと溶かして。
end.
▽キャラ指定なし/甘くて幸せ…な感じ
という設定でした!
チョコレートのような、とのことだったのでチョコをまんま使わせていただきました^^キャラは沖田くんでも良かったでしょうか…?^^;
素敵なリクエストありがとうございました☆
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