「はあ、のどかだねぇ」

春めいた小道にはたくさん咲き始めた花がちょこんちょこんと咲いている。
暑くもなく寒くもない、ちょうどいい空気が肌を撫でた。

気持ちいいなぁ
この季節が一番すき

なんて心地いい気持ちに浸っていたのに、すぐ後ろから聞こえるあたし以上にだらけた声音。


「ずいぶん呑気だねぇ、これから任務だっていうのに」

その声こそ、今から任務に行くような引き締まった声じゃないくせにそんなことを言うもんだからいつも通りにカチンときて。

「任務ったって一日目は移動日でしょ」

キッと睨むとその声の主は呆れたように目線を外す。
あーあ、またやっちゃった。
睨みを聞かせて冷たく言葉を発したくせに、すぐにこんな後悔をしてることなんて、絶対に気付いてないんだ。この人は。

「あ〜あ、これが休日だったらなぁ」
「休日に俺といていいわけ?」
「は、はぁあ?!誰もそんなこと言ってないでしょっ」

何気なく言った言葉に思わぬ返答が返ってきて、あたしは慌てふためいた。大体、こいつは何の気なしに言ったんだろうけど、あまりにもあたしの心の内を読んだように言うから驚くのも無理もない。

「俺だって休日をお前と過ごしたくないよ」
「あたしだってそうですー」

キリッと痛む胸は気にせず言い返す。こんなのは日常茶飯事。もう慣れた。

「じゃあ誰といたいわけ?」
「え?!だ、誰って急に言われても………うーん、ヤマトとか?」

思い浮かばなくて適当に最近任務が一緒だった後輩の名前を挙げた。だって一緒に過ごしたい相手なんて、どんな時だって一人しか浮かばない。
だけどその名前を言うわけにもいかなくて。

「…ヤマト、ねぇ」
「なによ」
「いや、別に。いいんじゃない?」

一瞬だけ、ほんの一瞬だけだけど、カカシが悲しそうな表情を見せたと思ったけれど、本当にそれは一瞬だけですぐに元通り。
あたしの勘違いだって強く思わせるような普通な顔をして……………そんな顔しないでよ。


「でもさ、」
「んー?」
「たまには一緒にいるのもいいかもね」
「はぁ?誰と?」
「…カカシ!」


たまには、ね!

念を押すように言い放って、あたしは前を向いてズンズンと歩く。
例え勘違いだって、自意識過剰だなんて言われたって、そんなことは関係なくて。

もしも、本当に一緒にいてくれたらって。
そんな日を夢見ると、素直になれないあたしだって多分、幸せいっぱいでカカシの隣りにいるんだろうなって思ったから。

それはもしも、もしもの話だけど。

そう思ったから。


歩くあたしの後ろから、ははっといつもの笑い声が聞こえた。
試しに後ろを振り返ってみたら、春の暖かさみたいに優しい笑顔をしたカカシと目が合って。

トクンと鳴る鼓動。
熱くなる頬。

なんで赤いのなんて聞かれたら、春のせいだよって答えることにしよう。





「ライバルはヤマトかぁ」
「えー?何か言ったー?」
「別にー。なんでもなーいよ」



end.




▽カカシ/同期/お互い素直になれない両想い
という設定でした!
このあとヤマトはカカシ先輩からの冷ややかな視線攻撃を受けます(笑)
素敵なリクエストありがとうございました!








back


- ナノ -