空は、あたしの心ん中を映すみたいにどんより紺色だ。
家を出て、一人になって初めて涙が溢れた。
こんな素直になれない自分が嫌でたまらなくなる。
(これじゃあ銀時も…嫌になるよなぁ)
初めて大きな喧嘩をして、初めて家を出た。
喧嘩のきっかけなんて小さなことで、忘れてしまいそうになるくらいなのに。
呆れたように物を言う銀ちゃんのあの表情を見るのは、辛くて仕方がなかった。
何も持たずに家を出た。
すぐに帰れるという環境を当たり前のように選択した自分が、情けない。
ここからすぐに万事屋に戻って、謝って。
そうすれば銀時だって許してくれるだろう。
そう思っているのになかなか動き出せず、しゃがみこんだ。
素直になれないなんていう歳でもないのに、折れ方も知っている歳なのに。
(馬鹿みたい…)
こんな子供みたいにダダをこねるようなやり方、馬鹿みたいって心底思う。思いながらも、喉の奥が苦しくて涙すら滲んできたもんだから余計恥ずかしくなってきた。
そんな時に。
「何やってんの」
そんな時にわざわざ現れるんだから、タイミングが悪い。
なんて、人のせいにして。
「何やってんのって聞いてんの」
「べ…別に。そっちこそ、何しに来たの」
「別に?定春の散歩だけど?」
「…定春いないじゃない」
「うるせーなァ、発情してどっかに逃げたんだよ。ったくどいつもコイツも逃げ足早えな」
それはあたしのことも言っているんだってすぐに分かる。憎まれ口だけど探してくれたことも、迎えに来てくれたことも。分かっているから、自分の幼稚さが情けなくて顔があげられなかった。
嬉しかったんだ、帰れると分かっていたけれど、またこうして銀時に会えたことが。
喧嘩をしても、憎まれ口を叩かれても、やっぱりあたしは銀時が好きだ。
「でさァ、なまえちゃんよォ。なんでガキみたいに泣いてんのよ」
「…………」
「俺はガキは嫌いだって知ってんでしょ」
…知ってる。
でも仕方ないじゃない。
胸が苦しくなって、喉が焼けるように痛いんだもん。涙が出ないわけないでしょ。
心の中で呟いたのに、それが聞こえたみたいに銀時はしゃんがんであたしと同じ目線になって、ハァ。ひとつ、ため息をついた。
「で?何で泣いてんの」
言ってみなさいよ、
いつもみたいにやる気のない瞳。鼻には指を突っ込んで興味ないふりをして。
でもあたしは知ってる。
銀時は何かを知りたい時、聞きたい時は必ず目線を合わせるんだ。
何年も一緒にいて、そばにいて、銀時のことは結構分かっているつもりなのに。こうやって意地ばかり張ってしなくてもいい喧嘩をして、一緒に居れる時間を少なくしてるなんて…本当に本当に馬鹿らしいよね。
「…好きだから、だよ」
初めから素直になればいいのに、そう出来ないのはやっぱり銀時のことが好きだからなのかなとかそんな都合のいいことまで思ってしまうのは。
「あっそ、じゃあ別に構わねえけどよ。とにかく早く帰るぞ」
ドラマの再放送見れねえだろ。
なんて悪態つきながらも、やっぱり優しさをちょっとだけ見せてくれるから。
ぎゅっと繋がれた手がなによりもその証拠。
普段ベタベタしない銀時の、精一杯の愛情表現。
喧嘩して出て行って、その時点でもう、銀時は許してくれるなんて甘えて。意地を張る自分をただ許せなかっただけだった。
そんなあたしのことを、多分銀時は分かっているから、探してくれて一人にしないでくれたんだ。それを思うと、銀時からのごめんねなんていらないと思った。
家に帰ったらあたしからごめんね、って言って銀時の好きなものでも作ってあげよう。
それまでこうして、銀時のあったかい手に甘えていてもいいよね?
どんよりと紺色だった空の隙間から、朱い光が差してくる。
あたしの心の中の気持ちをまた見透かしたみたいに、繋いだあたしの手をぎゅっと強く握り締めた。
つかまえたい指先ホントはどこにも行くなよって言いてェんだよコノヤロー。
end.
▽ぎんたま坂田/切甘
という設定でした!
本当に大変遅くなってしまいすみません(´;ω;`)!!久しぶりのぎんたまキャラのお話でしたが、執筆側としてもとても楽しめました!
素敵なリクエスト、ありがとうございました☆
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