「あのね、ボクね」


声が聞こえた。
その声は可愛らしい小高い声と。

「しー。起こしちゃうから静かにネ」

柔らかい優しい音色。
どっちも聞き慣れているから、夢を見始める瞬間でも心地良く聞こえた。

「あのね、えっとね…」
「なによ、もじもじしちゃって。おしっこ?」
「ちがうよ!あのね…父さん、ひみつにできる?」

うとうととまどろんだ頃、そんな言葉が聞こえてもう一度だけ呼び起こした意識。
ひみつってなに?母さんも知りたいじゃない。なんて思いながら、そのまま目を瞑って聞き耳を立てた。

「言ってみなさいよ」
「じゃあ誰にもいわない?」
「んー。」
「母さんにも?」
「母さんにもだめなの?」

そう聞いた瞬間、なんで?!と吃驚して少しだけうすーく瞼をあげてみる。なんだかほんのり顔を赤らめて「だめなんだ…」と俯く我が子。
どうしたんだろう?と思っているとその隣りの片方だけの瞳と目が合った。
あたしが起きていると分かるとくすりと笑ったカカシ。起きてること、言わないでね!と薄く開いた目で訴えると分かったよ、と言うように頷いた。


「分かった。母さんにも言わないから」

ね、と念を押したカカシの瞳はとても優しくて、ああこういうとこが好きなんだよなぁ、なんて思ったりして。
そんな優しい瞳に誘われるようにもじもじしていた我が子の小さな声が聞こえた。

「あのね…ぼく、ね…」
「………」

やっと聞けるんだなんて思っていたのに、肝心なところは何ひとつ聞こえない。おかしいと思い、思わず瞳を開ければ、小さな体はカカシに近寄り、耳のそばでコソコソと話していた。

「あ、」
「…あ」
「…え?あ!母さん起きたの?!」

あたしに気付いたカカシの声を筆頭に、小さな体と瞳が焦ったようにこちらを向いて。

「だ、だめだよ父さん!言っちゃだめだからねっ!」

カカシに念を押して、逃げるようにパタパタと走っていった小さな男の子。
その様子をなぜか複雑そうに眺めているカカシに当たり前のように詰め寄った。

「ねえねえ、何て言ってたの?」

聞けば、困ったように小さくため息をつくカカシ。この態度はなんだろう?まさかあたしの悪口とか…?!
そう不安がっているのに、カカシは眉尻を下げて笑った。

「なーいしょ。男の約束だからね」

しかし困ったなぁ。
そうボソッと呟いたから、あたしはいよいよ不安になった。

「や、やっぱりあたしの悪口?あたしあの子に何かしたっけ?!」

いつも甘いかなぁと思うくらい優しく接してきた。だってあの子はいつもいい子で叱ることなんて数少ない。親馬鹿なわけじゃないけれど、抱き締めたりそばにいたり、愛情はたくさんたくさん注いできたつもりだった。だからなおさら。
知らず知らずのうちに、あの子に嫌われることしちゃったんじゃないかってオロオロとしていたら。

「その逆」
「へ?」

落ち込んだあたしを励ますようにカカシがポンと肩に手をおいて。

「結婚したいんだって、お前と」

いまだ困ったように笑ったカカシの瞳が、呆気に取られているあたしの瞳を写している。

「…え?」
「どうしよう、俺。人生最大のライバル出来ちゃったよ」

まぁでも、俺は負けないけどね。

いまだ呆気に取られているあたしにカカシはいつもみたいににっこり笑った。

なんだ…嫌われたんじゃなかったんだ…。
ふっと安心したあたしの隣りでにこにこと笑っているカカシ。

「カカシ…大人気ないよ」

余裕綽々な態度だからちょっといじめたくなった。

「なにその呆れた目」
「だってカカシ、余裕すぎるから。ライバルは手ごわいよ?」
「えー…」



窓辺からきらきらと日差しが入る昼下がり。
今日は三人なかよく並んでお昼寝をしよう。
ちょっと覗けば、別部屋でほんのり頬を赤くしながらおもちゃで遊ぶカカシにそっくりな男の子。
隣りには、日差しに目を細めながら目が合えばふんわり笑ってくれる愛しい人。

あたしは多分、どっちかなんて選べそうにない。


ずっとずっとここにいるよ
いつも
、きみのすぐとなり



(今日はお前そっちね)
(ずるい!ボクだって母さんのとなりがいい!)
(いいから早く寝なさい)

end.





▽カカシ/夫婦/息子とほのぼの
という設定でした!
大変遅くなってしまいすみませんでした…!パパなカカシ…萌えたぎりますよね^///^
素敵な設定ありがとうございました☆







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