蹴り上げた足元から、泥の混ざった冷たい水が跳ねた。
そんなものにも気にせずに一目散に駆け走る。
髪も服もパンツまでびしょ濡れだけど、走らずにはいられない。

太陽の出てない雨の日は嫌いだ。
布団に入って目を閉じると瞼の裏から赤い光が見えだして。
邪魔だ、消えろ。
太い声でそう聞こえる。
オレの身体の内側で、何かがうごめいているみたいで。
かと思えば、そんなオレを不審がる目の数々。昔、向けられたあの目が瞼の裏から離れなくなる。

あれから何年も経った。
仲間も出来た。
大切な人も出来たのに。

(いまさら、なんだっていうだってばよ!)

薄暗い雨の日に、まだあの時のことが蘇って。

消し去りたかった。
すべて忘れたかった。
オレの身体にいるあいつにも、負けたくない。

冷たい雨に打たれて、着いた場所。
バタンと扉を開ければ、目を見開いたなまえと目が合った。

会いたかったんだってば。ただ、それだけ。


「ナルト!どうし…」

なまえの言葉を遮るように、そして飛び込むように抱き締めた。
やわらかい身体はとてもあったかくて求めていたもの、そのもので。

「会いたかったんだってばよ」

ぎゅっとさらに強く抱き締めて、腕の中に閉じ込めればもう離したくないと思ってしまう。
そんな強引なオレなのに、ふわりと感じた背中に回された手に危なく泣きそうにさえなってしまった。
もしかしたら…泣いてしまってもバレないかもしれない、なんて思うほどオレの服から水分がなまえの服に移りこんで湿らせていく。

「そっか…いつでも会いに来ていいよ」

きっと濡れてしまって気持ちが悪いと思うのに、それなのになまえはオレの不安定な思いを分かっているかのように濡れた頭を戸惑いなく撫でて。その感触が心底心地よくて瞳を閉じた。

もう、あの目は現れない。

「今日泊まってもいい?」
「仕方ないなぁ、一人で寝れないんでしょ?」
「ガキみたいに言うなってばよ」
「あはは、甘えん坊なくせに」


言われてムッと眉を潜めるけれど、そう言われても仕方ない。
確かになまえがいないと眠れなくて。
自分がこんなに甘えん坊だなんてことも知らなかった。

「オレってば情けねえってばね」
「なんで?」
「女に甘えるなんて…キバとかシカマルに知られたら笑われるってばよ」
「そうかな?きっとあの二人だって彼女には甘えてるんじゃない?」

そうなのか?
想像したら心底笑えた。
明日会ったら聞いてみよう、と思いつつ想像した延長で吹き出して笑ってしまったら、それを見た彼女も嬉しそうに笑った。

「ナルトの笑った顔、大好き」
「お前さぁ…そんな格好でそんなこと言うなってばよ」
「そんな格好って?」
「濡れ濡れでスケスケ」
「これはナルトが濡れてたから……ってもしかしてそれが狙い?」

もう、とやんわり押し退ける腕を引き寄せてもう一度抱き締めても、なまえは抵抗なんてするわけなくて。
そのままなまえの首筋に顔を埋めて、胸いっぱいになまえの匂いを吸い込んだ。

「寒いから着替えなよ、ナルト」
「平気。服だけ脱いでこのまま寝ればいいってばよ」
「スケベ、へんたい」

言いながらも一枚一枚、脱ぎ捨てる服。
ベッドに着いた頃にはお互いの肌から温もりを分け合って。

あったかいね。
あったけえってばね。

そんな会話をしながら、もっともっと、と求め合う。

なまえに会った瞬間に、もうあの幻覚みたいなものは消えて。
なまえに触れればたちまちあの孤独で潰されそうな思いも忘れられる。

弱えけど。
情けねえけど。

オレにはなまえが必要で大切で。

なまえしかいらねえって思ってしまう夜が今日も過ぎていく。
求め合う熱い息が、冷えた身体中を次々と温めた。



この身はすべて惜しみなく、ただ隣であなたの為



弱いなんて、情けないなんて思わないから。
ねえもっと、甘えていいんだよ。
ナルトの、あたしを求めるその手が、その瞳があたしをいっぱい満たしてくれるの。




end.




▽ナルト/甘/お互いが大切でたまらない
という設定でした!
少し大人なようで大人になり切れないというお年頃にしました(笑)若干の下ネタ等すみません…!
素敵なリクエストありがとうございました☆




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