教室の隅まで聞こえる笑い声。その中から微かにシカマルの声も聞こえた。

(よく笑うなぁ)

頬杖をついてぼんやり考えていたら、その当の本人が怪訝そうに近付いてきた。

「何睨んでんだ?」
「睨んでないよ、自意識過剰だねまったく」

そう言えばちっと舌打ち。さっきまで笑っていたあの笑顔はどこへやら。
キバとかナルトとか、友達といるシカマルはよく笑う。
あたしの前じゃ、笑わないくせに。

そんなことを言ったら絶対変な顔して、はあ?なんて言われるだろうけど。
所詮あたしはただのクラスメートだし、当たり前なのだ。
いつからこんなに嫉妬深くなったんだろうと自分に呆れた。


「そういえばさ、3組の子に昨日告られたんでしょ?」
「…そういうのは情報早いんだな」
「で?どうしたの?付き合うことにしたの?」
「んなワケねえだろ、顔と名前が一致すらしてなかったんだからよ」
「ふーん、これで5人目ね。シカマルが振った子」
「だからなんだよ」
「べっつに〜!モテるから断るのはもう慣れたんじゃな〜い?」


自分からふった話のくせに、だんだんと腹が立ってくるのはやっぱり嫉妬からなのか。そんな自分が醜いと分かっているのに、楯を突くようなことを言ってしまうのはいつものこと。
だから今日も、適当に流されると思っていたのに。

「…………そんなことねえよ」

小さく呟いたシカマルはどこか苦しそうだった。きっとシカマルは、女の子たちを振ったことに罪悪感を感じてるのかもしれない。
断るのはもう慣れたなんて、そんなことを思う奴じゃないって誰よりも知っていたつもりなのに。あんな言い方をした自分が情けなくて恥ずかしくて。

「…そう」

居ても立ってもいられず、飛び出した教室。昼休みで騒がしい廊下を走りながら向かったのは屋上だった。
何人かの先客はいたけれどそんなことはどうだって良かった。
ただあの場から離れたかったから。

(気、悪くさせちゃったかな…)

思いながら見上げた空は気持ちに反して爽やかで白い雲がふわふわ浮かんでいる。
そういえば、雲、好きだったなぁ…なんて思ったとき。

「ほんっと信じらんない!奈良の奴、あんたのこと振るなんて!」

シカマルの名前を聞いてハッとした。
見れば少し離れたところに数人の女子。


「しかもあんたのこと"知らねえから"とか言ったんでしょ!」
「そうなのー?デリカシー無さ過ぎ!」
「モテるからって調子に乗ってるのよ」
「こっちがこんなに悲しんでるのに奈良くんはきっと何も考えてないって思うと腹立つー!」


最後まで聞いたのが悪かったのか。よりにもよって、振られた本人までもがシカマルを悪く言っていたから。
見過ごせばいいのに出来なかった。
シカマルのあの苦しそうな顔が頭に浮かんだから、余計に許せなかったんだ。

「シカマルはそんな奴じゃないよ!何も知らないくせに勝手なこと言わないで」

違うクラスの女子といえど顔は少なからず見知っていた。

なに、コイツ。
奈良くんと同じクラスの子だよ。

コソコソと聞こえる中、一人の子が「行こ」とここを離れようとした。

どんっ!

と誰かがぶつかって、あたしは尻餅をついた。

去って行った女子達が「きゃははは、ださー」とか言って笑っている。


(…ダサいのなんて、分かってる)

コンクリートについたお尻が痛い。
だけどはっきり言ってやったからか、心は晴れやかだった。

許せない、あんな奴、振られて正確だよ!

思いながらもう一度空を見上げたら。

「何やってんだよお前」

頭のてっぺんからちょんまげが垂れ下がったシカマルの姿。ビックリして振り向くと、ポケットに手を入れたシカマルがだるそうに立っていた。

「なっ!いつからいたの!」
「んー、ちょっと前」
「何しに来たの!」
「雲とか見に?」

いつもと変わらないシカマルの態度に煮えきれず、意を決して聞いてみる。ただ、シカマルの目を見る勇気はなかった。

「シカマル…聞いてた?」
「なにを」
「さっきの…」
「…ああ。言わせとけばいいのによ」
「やっぱり聞いてたんだ…で、でも!多分、振られたからあの子もムシャクシャしてたんだよ!」

フォローしたくもないのに、そう口から出たのはやっぱりさっき苦しそうな顔を見たから。
あたしにはそれしか出来ないし、こんなことでいいならしてあげたかった。きっとシカマルは傷ついてる…。
そっとシカマルを見上げてみる。
そうしたら、何故か見たことのない表情をしていた。

「シカマル…?」

呼べば、差し出された、シカマルの手。

「お前ってほんっと、馬鹿だな」

初めて見た。
初めて知った。
シカマルって、こんな風に笑うんだ。
後ろに広がる空がシカマルの笑顔をさらに引き立てる。
細めた目が少しだけつり上がったところとか、並びのいい歯を出すところとか、いつものシカマルより子供っぽくて。
キバたちといるシカマルを見てきたはずなのに、そのときより何倍も何倍も…かっこいい。

揺れる鼓動を必死に抑えながら、差し出された手を握る。
思ったより大きな手があたしの手を包み込むとぐっと引き上げられて。
握られた手から、あたしと同じような鼓動の音が伝わったような気がしたのは、気のせいだったかな。

そう思ったとき、目の前のシカマルの頬は少しだけ赤く染まっていた。



まずは視線を合わせることから



その次はきっと。
またもう一度、笑ってね。




end.




▽シカマル/学パロ
という設定でした!
シカマルが若干少ない出演ですみません…!
素敵なリクエストありがとうございました☆



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