「あれ?」
「あ、ナルト!今帰り?」
「おう!こないだの追試〜」
「あー、そういえばナルト、赤点だったもんね」
「まぁ…でも、前回よりは少なくなったってば!」




しとしとと、雨が降る。

もう人気のない学校の昇降口で、上から下に落ちる滴をひたすら眺めていたら、慣れ親しんだ声が聞こえて、振り向けばそこには同じクラスの金髪の少年。

一際リアクションの大きい彼は、あたしと他愛のない会話をしながら、降り続く雨を見て、げっ!と嫌そうな顔をした。


「まだ降ってんのかよ」
「そうみたい…朝は晴れてたのにね」
「こりゃ濡れる覚悟で帰らねぇとな」
「えー、やまないかなぁ」


しばし二人で空を見上げて、どこまでも厚い雲にげんなりした。
すると突然、ナルトはあ!とまたもや大きい声を上げて嬉しそうににっこり笑う。


「置き傘!あるんだってばよ!」


よし!とガッツポーズをしてすぐに傘置き場に走ると、ラッキー!と分かり易く喜んで。
手にとった彼の瞳と同じ色の青い傘を自慢気に開いた。


「これで濡れずに済むってばよ!」
「あはは、置き傘なんてナルトらしい」


濡れずに済むと嬉しそうな顔に、釣られてあたしも微笑んだ。
今日の天気には不釣り合いのナルトの笑顔にはいつも釣られて微笑んでしまう。
こちらも嬉しくなるような、何か不思議な魔法みたいで。

その笑顔が大好きなあたしは、いつしかその人物自体が大好きになってしまった。


「あ…えっと、入ってく?」
「え、…いいの?」
「確か家そんなに遠くなかったよな!濡れちまうから入ってけってばよ!」


ほら、と少し前に差し出された青い傘。あたしは嬉しくて、ありがとうと笑った。

普段より何倍も近い彼を見上げて歩く帰路は、いつもの道じゃないみたいに楽しくて。
時折右肩が小さくぶつかるたびに、ドキンドキンと鼓動が波打った。


「でさ、でさ!そのときシカちゃんが〜…」


相変わらず喋り倒す彼の話は二人きりだというのに気まずさを感じなくて、そこがまた心地良よくて。

彼の話を聞いては頷いて、そして二人で笑い合って。

本当に幸せな時間。


「それにしてもお前、天気予報見てこなかったんだってば?女の子ってそういうの見るだろ?」
「えっ!!…あ〜、見たような気がするけど、家出るときには忘れちゃった!」


あはは!と笑うあたしに何だよそれ〜!とナルトもまた笑ってくれて。


それから律儀にあたしの家の前まで送ってくれたナルトにお礼を言えば、いつでも入れてやっから!とまたあの大好きな笑顔で言ってくれた。

ばいばい、と手を振って自分の家へと今来た道を引き返すナルトの背中に。


あたしはごめんね、と小さく小さく呟いた。



想う

(本当は。
天気予報も見たんだよ。
雨だって言うのも、知ってたよ。
だけど傘は、持たなかった。
だってきっと、ナルトが入れてくれるって思ったから。
置き傘があるかどうかは運に任せて、ずっとナルトに会えるように昇降口で待ってたんだ。
ナルトの優しさを利用してでも、ナルトと一緒にいたかった。

ずる賢くて、ごめんね。
こんなことしか出来なくて。きちんと伝えられない自分が情けなくて落ち込むこともあるけれど。

それでもナルトを想っていたいの。)




見えなくなるまで、見送った背中。少しだけ泣きたくなったのを我慢して。
パタリと閉めた玄関の扉の外では、まだ。
しとしとと静かに滴の音が聞こえていた。



end.



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