「ここ、間違ってんぞ」
「あ!ホントだ!」



グランドから、部活動の声が聞こえてくる放課後。赤みかがった空から沈みそうな太陽の光が真っ直ぐと差した生徒会室でふたりきり。

向かい側に座るシカマル先輩と次の議題の流れを確認をする。
議長である先輩と書記であるあたしは、こんな風にふたりで作業することは稀じゃなくて。

そのたびに、緊張を必死に隠しながらもその日がすごく楽しみだった。


「これ…全部書くんですか…」
「そうみたいだな」
「先輩…手伝って」
「お前書記だろ」
「…そうですよね」


大量の資料を前に、嫌々という態度を取ってみたけれど、本当は仕事がたくさんあるほど嬉しい。
だって一緒にいれる時間が長くなるから。


「大体会長さんはいつも俺たちに仕事押し付けるよな」
「そうですよね…でも仕方ないですよ!会長さんは受験生ですから」
「お前知らねえのか?カカシ先輩、もう推薦で大学決まってんだぞ?」
「えっ!!」


はめられた!
なんて大声で言ったら、うるせえよと小突かれて。
こんな何でもないことが本当に嬉しい。

ふふふ、と思わずにやけてしまったら、なんだよ?と眉を潜める。
片肘をついて首を傾げるシカマル先輩にふと沈みかけた夕日の光がゆっくりと当たった。

きれいで、かっこよくて。

見とれてしまいそうになったからあたしは慌てて資料に目を落とした。


先輩は、その容姿故あたしたち後輩たちには結構モテる。教室ではいつもどこかで先輩の話が飛び交っているくらいだ。
だけど、その中でもあたしはその子たちよりも一歩前を歩けていると思う。
この生徒会という立場が、あたしと先輩を繋げてくれている。

だから欲張りはしない。

ただ顔を見れるだけで。
ただ話が出来るだけで。
それだけですごい事だから。それ以上欲しいとは思わないようにしている。
その先を望んでしまったら、きっと壊れてしまうもの。生徒会という立場を使って必死に繋ぎとめているこの距離が。


「ほら、ぼーっとしてないでやれよ」
「あ、…ハイ」


ペンを動かす。
無心になって。その綺麗な黒髪に、触れたくなってしまったから。
顔はあげない。
なによりも。夕日を浴びた先輩に、見惚れてしまうから。


必死にこらえて、耐え続けて。
なのに先輩は、ちっとも分かっちゃいない。


「半分貸してみろ」
「え?」
「ふたりでやれば早ェだろ?」


めんどくせぇなぁ、
そう言いながら向かい側の席から隣りに移動した先輩は。
さっきは手伝わないなんて言ったくせに、こういう時に限って優しくするんだ。


ちょっとだけぶつかり合い互いの肩。
そのたびにドキンと打つあたしの鼓動。


「どうした?具合でも悪ィのか?」
「な、んでもないです!」


上気する頬の熱を必死に耐えて、さっきより近くで聞こえる声に目眩がする。


「なんだよお前、深刻な顔なんかしやがって」
「何でもないですって!…あー!書く欄一つ間違えてた…」
「…ぷっ、ぼけーっとしてっからだろ」


ははは、と笑う先輩の笑顔はきらきらと差し込む夕日よりも鮮やかで。

もうこうなったら我慢なんて出来なくて、何もかも忘れたようにゆっくりと近付いていった。

望む


(その先を望んでもいいですか?)

唇が一瞬だけ触れた。
見開いた瞳の先輩を見て、ハッと我に返ったあたしはおろおろと立ち上がろうとする。
だけどそのまま、動かなかった。
伸びてきた先輩の手に引き寄せられて、あたしたちの唇はもう一度触れた。
それは二度目のキスで、許された望みだった。



end.



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