なぁシカちゃん。

あ?

好きな人に好きな人がいたらどーするよ?

どーするもなにも、そんなめんどくせー恋愛はしねぇ。

…したくてしてんじゃねぇんだよなー。

珍しく弱気だな、本気なのか?

当ったり前ェだ。本気だからこそ弱気になるっつーかなんっつーか。

ふーん。お前らしくねぇな。

オレらしいって何よシカちゃん。

お前らしいって…例えば、


『奪う』とか?





追いかける




太陽が真上に上がる頃、決まって屋上にはあの人がいる。出入り口から真正面に広がるのは住宅街。とても景色がいいとは言えない場所だけど、それでも青空が広がっていれば、気持ちいい。
そんな景色を手すりの方で眺めているあの人は、クラスすら分からないものの、上履きのカラーから見て一つ上の学年だと分かる。

「犬塚くん、また会ったね」

毎回のように、この時間この場所でオレたちは顔を合わせている。…と言っても、オレが好んでここへ来ているということを、多分この人は気付いていない。

初めて会った時から、この人からは何か惹かれるものを感じていた。大人びた表情で空を眺めていると思ったら、気さくに話し掛けてくる表情はとても子供っぽくて。無邪気で。上品そうな顔して毎回授業をサボるギャップとか、年上とは思えないほど親しみ易かったりとか。
異様に気になっていた。
それがいつか、こういう感情に変わるなんてことは、単純と言われるオレなら至極あり得ることで。

「先輩、毎回サボって単位大丈夫なの?」
「それは犬塚くんもでしょ?」
「オレは心配ねぇ、教師には好かれる性格だから」
「へぇ〜そうなの?」
「嘘だと思ってんだろ?」
「そんなことないよ〜!」


はははと笑うこの人の、優しそうな笑顔がたまらなく好きだ。
この時間だけという短い間に、オレの気持ちはハイスピードで膨れ上がった。だけど溢れることはない。だってこの人は、オレじゃない奴のことを見ているから。


「そういえば…まだ連絡来ねえの?」
「うん…来ないよ」
「ひでえ奴だな…」


うん。そうだよね…。

そう言って、悲しそうな笑顔を見せる。こんな笑顔を見たいんじゃないのに。こんな笑顔にさせる奴が本当に許せないんだ。


『あたしの彼氏はね、実は去年までいた先生で。転勤しちゃってから、全然連絡つかなくなっちゃって。…あたし振られちゃったのかな』


前にたまたま聞いたこの人との会話を思い出す。あの言葉に、忙しいだけなんじゃねえ?と気の利いたことを少しも言えなかった自分と、今も尚この人の心を独占している無責任な奴が腹立だしくて仕方がない。

本当は、心の奥底には"もう連絡が来なきゃいい"と思ってしまっているなんて気付いていないワケじゃない。シカちゃんが言ってたみたいに、いつものオレなら、このチャンスにつけ込んで強引に奪ってしまえばいいと思うはずだ。


でも、だけど…。


どうしてもそれが出来ない。だってオレは、この人の優しい笑顔が好きなんだ。悲しそうな笑顔なんて、見たくもねぇしさせたくもねぇ。


「先輩!そんなシケた顔してねぇでさ、今度ぱーっと海にでも行こうぜ!あ、オレの仲間全員バカばっかだからぜってー楽しいぜ!」


突拍子のないことを言うオレに呆気に取られたような表情のこの人に近付けば、よろめく程の強い風が吹いた。右隣、よろめくこの人の小さな肩をしっかりと抱き締めて。途端にこの人のような優しく流れる風を感じながら。


「辛い時は、オレが笑わせてやるからよ」


奪うことは出来ない。だから少しでもその笑顔を守りたい。こんなんでも、「オレらしい」と言えるのかどうか、今度シカマルに聞いてみよう。


(――優しい風が吹く中で、抱き締められた小さな肩が安心しきったように委ねられた。ありがとう、と笑った先輩の笑顔はオレの守りたいものそのもので。いつかその笑顔が、オレだけに注がれる時がくるまで走って走って、追いかけてやるんだ)




end.




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