窓を開けると生暖かい風が頬を掠めて、もうすぐ夏なんだと思わせる匂いがあちこちからする。
こんないい天気は、出掛けるのが一番なんだけど、前日まで長期任務をこなしていた体を動かすのは酷くダルい。

日の光を浴びているベッドに腰をかけて、いつもの愛読書を手に取れば、ごろんと横に転がった。縦に並ぶ活字を目で辿って数分…、一つため息をついてパタンと本を閉じた。少し、呆れ笑いまでして。


「はは、やっぱりダメか」


小さく呟いたはずの言葉は一層自分を呆れさせる。何故ってそれはやっぱり…なんでだろう?
自分でも分からない程、脳内はあの子でいっぱいになる現象。
休みの日は決まってそういう現象が起こる。起きている間はもちろん、寝ている間まで、俺はあの子の夢を見る。瞼の裏側にいるみたいに、耳元で声まで聞こえるのだ。

なんでだろう…?なんて思ったけど、俺はこの感情を知っている。知っているけど…ねぇ、だって、彼女はまだ中忍だし。子供だし。こんな感情に戸惑うのも馬鹿らしいから、考えないように勤めているはずなのに、今日も1日やっぱりあの子のことを考えてしまうようだ。
そもそも考えないように勤めることが変だよ…なんて思いながら、瞼を閉じる。


『先生…』


『カカシ先生』



―――ほら、やっぱり聞こえる。そう自覚した時にはもう彼女の姿までもが瞼の裏に現れる。にっこり微笑んでいる彼女に俺はそっと問いかけてみる。


「今、お前は何してる?」


何を考えてる?誰かを想ってる?この瞬間、お前はどんなことをしているの?


聞きたいことを聞いてみる。俺が創り出した彼女はいつもの人懐っこい笑顔を見せる。自分自身の勝手な妄想だというのに、俺はその笑顔一つで満たされていく気分になる。…なんて、ホント馬鹿だな俺は。
いい加減自分自身に呆れ果てた瞬間、瞼の裏の彼女が呟いた。


『…先生のこと、考えてるよ』


薄らいでいく姿なのに耳元ではっきり聞こえたその言葉にハッとしてパチっと瞳を開いてしまった。


「あ、」

…居なくなっちゃった。
瞳を開いたことにより瞼の裏側にいた彼女の姿は一気に消え去った。
"先生のこと、考えてたよ"

最後の言葉があまりにも都合が良すぎて、苦笑い。でも確かに顔が火照っていく自分がいて、誰も見ていないのに慌ててベストの口布をずり上げた。
頬が熱い。パタパタと手で仰ぎながら、これじゃあただの変態じゃないか、なんて思ってみたり。
火照った頬の温度より少しだけ冷たい風がひゅっと入ってきた窓辺に目を向ける。日差しが強いものの、空は雲一つない快晴。

…やっぱりちょっと出掛けてみようか。

そう思わせたのは、退屈なわけでもなくてこの晴れ渡る空のせいでもなく。

ただ、会いたいと思ったから。

だってよく言うでしょ、出掛けたら偶然会えるかもしれないって。そんな事を言ったらテンゾーあたり、呆れて笑うんだろうなぁなんて思いながら、履き物に足を通して。
扉を開けば、思っていたよりも日の光が眩しいのに嫌な感じがしないのは少しの期待をしているからなのかな。全くこの歳にもなって困ったモンだ、なんて嘲笑してこんな気持ちを一人収めておくのも息苦しい。

「さて、オビトのところにでも行こうか」

本当はあの子に伝えたいところだけど。今はまだ、オビトで我慢しておこう。




焦がれる

お前に会えない日は、いつだってそう。お前のことばっかりで、どうしようもないんだよ。




end.




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