「ヒナタってかっわいいよなぁ」

にやにや。鼻の下が少し伸びてる。
目の前のキバがそんなだらしない顔をして言うのは日常茶飯事。
聞きあきたと思いながらも、チクリ。いつもいつもちょっとだけ胸が苦しくなることを、キバはまったく気付いていないね。

「あのストレートの髪がヒナタっぽくていいんだよな〜」

…なんて。
生まれたころからパーマさながらのくるくる天パのあたしを目の前にして言えることなの?
しかもあろうことか、くるくるくるくる。そのごつごつした指先であたしの髪を器用に弄りながら、だ。

(どうせ、きれいなストレートじゃないですよーだ)

皮肉めいた言葉なんて絶対に口に出せないあたしは心のなかで小さく呟いた。
その間だってくるくるくるくる。
指先に巻き付けて、それからするりと外す。

だけど、目線の先にはヒナタ。

あたしなんて見ていない。
分かってるのに、ちょっとだけ引っ張られる髪の毛にとくりと鼓動の音が響く。聞こえちゃう?!なんて思いながらその都度キョロキョロ挙動不審になって…キバの視線の先を見つけてまたがっくりと肩を落とす。

忙しいね、自分を鼻で笑ってみたら余計虚しくなった。それなのに。
そんなあたしに当のキバは、


「でもこのくるくるも、捨てがたいんだよな〜」


なんて。
大好きな八重歯が見える笑顔。
たぶん、その笑顔は赤丸を撫でるときと同じ顔なんだけれど。
ぽっと自分の頬が赤くなって。
好き、と言われたわけじゃないのに、満たされるみたいに胸がいっぱいになるんだ。


落ち込んだり嬉しくなったり。
ドキドキしたりちくりと痛くなったり。
大忙しなあたしを目の前のキバはなーんにも知らない。



弄ぶ


end.








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