……はぁ。

深く深くついたため息。
仮面をつけた忍があちこちにいる特別な待機所で、こんなにゆったりと座ったのは久しぶり。
長期に渡った捜索の任務が今日やっとけりがついた。
極悪な逃亡者だったから、毎日息つく間もない任務で、体力はギリギリ。あと何日か長かったら…と思うとゾッとする。

仮面の小さな穴から広がる世界。
家でしか仮面を外せないからこの任務の間はつけっぱなしで。
目星にたどり着くまでも、何人もの人間に手をかけた。
仮面越しに見える血の色は最初こそ顔を歪ませたけど、暗部に入ってからはもうなんとも思わない。

里を守るため。
それだけを誓ってきたけれど、それさえも忘れてしまうほどで。

表で働く同期たちからは、きっとおかしくなったの?なんて思われるだろうけど、今さら仕方がなかった。


今日はうちに帰れるかな。

もう一度深呼吸して立ち上がる。
だけど少しだけめまいがしてよろけてしまった。


「おっと…、大丈夫か?」


よろけた身体を支える大きな手。
声が聞こえる方へと、視線を移す。

「あ、れ、?」
「ん?」
見上げた先にこの場所には似つかわしくない仮面のない人物。

(あ…)

仮面の隙間から見えるその顔は、小さい頃からの見知った顔。
近所のお兄ちゃんみたいな存在で顔を合わせれば一緒に遊んだり忍術を教えてもらったりした。

だけどそれももう何年も前のこと。
彼は表舞台へ。
あたしは裏舞台へ。
それから全く会えなくなっていたから仮面をつけているあたしなんかに気付くことないなんて思っていたら。

「ん…?よお!久しぶりじゃねーか」

聞こえた言葉はあのときの、小さい頃のアスマの声音。

「…よく、分かったね」
「ああ?分からねえわけねーだろ。チャクラが一緒だからなあ」

大きな口をあけて笑うところ、全然変わってない。
伸ばしたヒゲと煙草の香りだけがあの時からの年月を思わせて。
そのうち後ろに引き連れていた後輩っぽい人に呼ばれてはいはい、と返事をしていた。

「じゃあな、疲れてるみてーだからゆっくり休めよ」

ぽんぽんと頭に置かれた大きな手。家族に向けるような優しい瞳。

仮面の隙間からしか覗けない彼のその瞳もあったかいその手も、まったくあの頃とは変わっていなくて。

ああ、久しぶりだなあ。ってじわりじわりとあたしの胸に沁みていく。

彼がいなくなった待機所。
見渡せばやっぱり仮面ばかりの待機所。
だけどあの一瞬で、時間が戻ったみたいな感情が押し寄せて。

(こんな気持ち…忘れてたや)

絶え間ない暗い任務で、知らないうちに張り詰めていた緊張があのぬくもりでプツリと切れてしまったようで。
仮面の中、ひとつ、またひとつと溢れる涙すら久しぶりすぎてあたしはあのひげ面を思い出しながら小さく笑った。



思い出す



end.
















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