「おーう奈良くーん!おつかれ!」
「…おつかれっす」
任務帰り、報告書を手にやってきた受付所。
今日の任務はことごとくめんどくせー細かい任務でどっと疲れが出たこの時に、そこに似つかわしくない声がした。
「今帰りー?!」
からっとした声とにっこりとした笑顔になんだか疲れが倍増してしまった。
この人に会うと何かと長くなってしまうのだ。
不本意ながら一応先輩でもあるため、軽く流すことも出来ず。
「はは!今日はなんだか大変な任務だったんだね」
「笑いごとじゃないっすよ。こんな細かい作業は二度とやりたくねぇ」
ハァとため息をついて長居もしたくないと思い、帰ろうと翻した時。
「待って!」
呼び止められてまた小さなため息が出た。
(やっぱ長くなりそうだ…)
案の定、直感は当たったようで受付所から出てきた先輩は缶コーヒーを片手に休んでいきなよ!と待合室の椅子を指差した。
いや…、と断ろうとすればぐいぐいと背中を押されて無理やり缶コーヒーを持たされる。
すとんと隣りに座った先輩に満面の笑みで飲んで!と促されて、俺はげんなりしながらも缶コーヒーに口を付けた。
「…どうも」
「ううん!疲れたでしょ!一休みしてから帰りなよ」
俺は早く帰りてえんだけど…。
喉まででかかった言葉をコーヒーと一緒に流し込む。
「先輩も今日1日仕事っすか?」
「うん、そうだよ」
なのに随分元気だな…。
思いながら、煙草に火を付けて。
本当は一言、吸ってもいいかどうか聞くことが礼儀だろうが、この人の場合例外で。
男の先輩といるようなそんな気がしてならない。
(ガサツだからな…)
ふー、と煙を吐き出して心の中で納得。
そんなことを思われているなんて知りもしないだろう隣りの先輩がなんだか静かになったもんだから、声にでも出してしまったのかと焦っていたら。
「………」
オレの吐き出した煙を、何故か一生懸命目で追っていて。途中で分離した煙がアチコチに広がってしまった時には先輩の目もアチコチに動いて終いには見失ったというようにがっくりと肩を落としている。
試しにもう一度煙を吐き出せば同じようなことを繰り返した。
「ぶっ、はは!何やってんすか」
二度目にはとうとう耐えきれなくなって思わず吹き出してしまった。
(動物みてぇ)
思い出してクツクツと笑っているとぼーっとこっちを見る視線に気付き残りのコーヒーを流し込んで落ち着かせた。
「なんすか?」
まだ笑いたいのを我慢して綻ぶ口元をぐっと拭いながら隣りに声をかければ。
「笑った…」
ぽつり、先輩が呟いて。
「?」
よく分からずに首を少し傾げるとオレをじっと見ていた先輩が慌てて前を向き直して。
「な、奈良くん!笑った顔、すごくいいよ!キラキラしてる!」
すごく、かっこいいよ…。
張りのある声がだんだんと弱まっていく。その声に比例して先輩の頬は赤く染まっていった。
ボソボソという呟きだとはいえ、ストレートなその言葉。
あのガサツな先輩が今まで一度も見せたことのない女らしい表情をするもんだから。
…可愛い。
そんな言葉が頭に浮かび、先輩と同じように慌てて前を向き直したオレは。
やっぱり先輩と同じように、顔を赤くしていたに違いない。
惚れる
一目惚れは突然襲ってくるのです。
end.
!CLAP THANX!
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