いつもはじんわりと汗をかくほど暑い真夏の夜なのに、今日はなんだかひんやりしてる。
ぞくぞくと背中の方が身震いをして、この先は進みたくないと思った。


「さて、次は僕らの番らしいよ」
「は、はい」

真っ暗でいかにも何かが出そうな草村の中に、ぼんやり焚いた提灯を持ったヤマト隊長の後ろをギクシャクと歩きながらついていく。
今日は任務もなく、里の夏祭りに班のみんなで出向いていて。ナルトの提案でカカシ先生も誘ったけど、先生は急に任務が入ったらしいからって代わりに来たヤマト隊長。

せっかくの休みなのにとか言いながら最初は嫌々だったヤマト隊長だけどお祭りは嫌いじゃないみたいで、この肝試しを提案したのもヤマト隊長だった。

「き、肝試しとか…好きなんですか?ヤマト隊長」
「ん?好きとか嫌いとかはないよ。ただここの草村は出るって噂で聞いたことがあるから本当かどうか確かめたくてね」
「………」

好きなのかどうか聞いただけなのに余計なことを聞いてしまってあたしはさらに寒気が走る。

(で、出るんだ…)

噂と言っていたのにそこは全部すっ飛んで、"出る"という言葉だけに気持ちが集中してしまう。

(出るってやっぱりアレだよね…?どんな…?女の人とか?火の玉とか?無数の手とか?)

考えれば考えるほど寒気が止まらない状態になりあたしはひたすら俯いて進もうと決めた。

(前向くより、きっといいよ…ね?)

よし!と気合いを入れ前を歩くヤマト隊長の足を見ながら進んでいった時だった。

提灯の光が十分には届かず、ぼんやりとしか見えないあたしの足元の近くからかさり、草が擦れる音。

「…ひっ!」

声にならない叫び声。
不信に思ってか振り向いたヤマト隊長の提灯があたしの足元を照らして。

「……ッッ!!!」

ようやく見えたソレにあたしはまたもや声にならない悲鳴をあげて、とっさにヤマト隊長に抱き付いた。

「わっ!」

どしり。
受け止めてくれたものの、急でバランスを崩したヤマト隊長が尻餅をついたけどそんなことには気付かずにあたしはぎゅっとヤマト隊長にしがみついた。

「大丈夫。小さい蛇だよ、お化けじゃないよ」

草陰から顔を出した正体は、よくそこらへんにいる小さな蛇だった。
だけどあたしは、その蛇が大嫌いなのだ。

「へ、びも、いや…こわい」

上手く呼吸が出来ず、途切れ途切れの言葉。自分でも何を言っているのか分からないほど、気が動転していて。
血の気がサーッと引いていく感覚が分かる。

ぎゅっ。
なんだか底抜け沼に落ちていきそうな気がして、とっさに掴んでいたものにさらに強くしがみついた時。

「もういないから、平気だよ」

頭の上から聞こえた声と一緒にふわりと背中に回された手。
それに気付いたときにはその手があたしを引き寄せるように抱き締めた。

そういえば、あたし。
ヤマト隊長に抱き付いたんだった…!

思い出して、離れようと思ったけれど、あたしの体を包み込むように回された腕になんだか今度は緊張したようにドキドキと鼓動が鳴って動けない。

「ほ、ホントにもう、いませんか?」

どうにか口を開いたついでにちょっとだけ体を動かしてみた。
あまりにも鼓動が鳴っていたから、ヤマト隊長に気付かれたら恥ずかしい。
そう思っていたのに。

ぎゅっ。

少しだけ離れた体はまた元通り、ヤマト隊長の腕の中に収まって。
引き寄せられたらしいあたしは一瞬なにが起こったのか分からなかった。

「もう、いないけど。もう少しだけこうしていてもいいかい?」
「へっ?!」


聞こえたその声はいつもと一緒で穏やかなのに、耳元から聞こえるヤマト隊長の心臓の音は心なしか早くて。
ビックリして見上げてみれば、地面に落ちた提灯の灯りがちょっとだけ頬を染めたヤマト隊長を照らしていた。

逃げる


どきどき。
静かな夜の草村は虫の声が響いていたのに、あたしにはもう心臓の音しか聞こえない。
ひんやりしていた空気も、大嫌いな蛇への恐怖さえも、ヤマト隊長の腕の中に収まれば一瞬にして逃げていってしまった。


end.




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