「これ書いたら終わり?」
「は、はい…」


とん、と落ちてきた長い指の先には二、三枚重なった報告書。今日1日の簡単な任務についてだ。

「今日の任務三件もあったの?」
「はい…でも草むしりとか飼い猫探しとかだったので」


そう、と正面から聞こえる声に気にしながらさらさらと書いていく。
正面にいる人物は、いつものように片肘を立ててペンが走る報告書に目をやって…いたらいいのだけど。


「………」
「………」

顔をあげて確認したわけではないのだけれど、多分、その人物の視線は報告書ではなくあたし自身で。
そう気付いたのは最近で、彼の唯一晒された右目から強い視線を感じて。だけど勘違いかもしれないと何度も何度も繰り返す。そのうちに、その視線を感じない日はもの寂しく思ってしまう。それどころか逆にその視線を追ってしまうほど。

――その視線に落とされた。

そんな気がした。

でもこういう時、近くにその求める視線がある時は、本当にどうしたらいいのか分からなくなる。

「はたけ、上忍」
「ん?」
「あの…っ」
「んー?」
「あ、あんまり見られるとうまく書けない、ので…その…」

言ってしまってからハッとする。だってあたしを見ていたという根拠がないわけで。もしも、あたしなんて見ていなかったら…なんて思うと顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

「書けないから見るなって?」
「あ、いや…すみません!別にあたしを見てたわけじゃないですよ、ね…」

そう言いながらとっさに顔を上げてすぐに驚いた。
だってあたしを見るその瞳がいつもみたいに強さを感じなかったから。
とても悲しそうだったから。

「…はたけ上忍?」
「見ないでなんて言わないでよ」
「え?」
「お前を見ないなんて、出来ない。見つめていないと不安でたまらなくなる」

いつか、誰かに。持ってかれちゃったら困るでしょ。
そう言って、寄越した視線。今度は慈しむような優しい瞳。

(じゃあはたけ上忍が持ってっちゃえばいいのに)

そう思ったことは、口にはしなかったけどきっと伝わったはず。
長く見つめ合って微笑んだ先には、その瞳以上に優しくて甘い口付けが待っていたから。


見つめる


だからって肝心な言葉は言わないなんてずるいから、いつか絶対聞き出してやろうと思った。

end.



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