気に入った下着も手に入り、少し嬉しげに歩くゴーシュさん。
その隣を、私も心晴れやかに歩いた。

「‥そろそろお昼の時間ですね。
 お腹、空きませんか? リリィ」

「‥え?」


  あ‥‥もうそんなお時間なんだ。
  全然気付かなかった。


「そうですね‥‥」

私は別に大丈夫だけど、ゴーシュさんはお腹空いたよね、きっと―‥
‥そんなことを考えていると。


「‥何なら、食べられます?
 パンケーキとか、デニッシュとかはどうでしょうか」


「‥‥え‥?」

「いえ‥
 軽いものの方が良いのかな、と思いまして」

「あ‥‥」


  ちゃんと、聞くんだ。
  そういう辺りもジギーと違う。
  ‥‥ふふっ。


「ありがとうございます‥♪」

「え?」

嬉しくてにこにこと微笑んで答えれば、ゴーシュさんの疑問符が飛ぶ。

「そんな風に聞かれるとは、思わなかったから」

「‥もしかして、何か気に触りましたか?」

「いいえ、全然!!
 そういうのじゃなくて‥
 その、ジギーはそんな風に聞いたりとかしないから‥何だかくすぐったくって」

食べられるものは何ですか なんて聞き方、初めてだった。
リーシャ相手に彼がこんな聞き方などしていないであろうことは、リーシャとの付き合いが長ければ予想がつく。
こういうのも、ゴーシュさんの 私用の 気遣いの仕方なんだな なんて思うと妙に嬉しくて。

「ごめんなさい、比べたようなこと言って」

「ああ、そういう事ですか。
 ‥良かった。
 何か失礼を働いたのかと思ってしまいました」

ジギーの名前を出したことを詫びれば、彼はほっとしたような顔をする。
本当、ゴーシュさんって紳士よね‥♪

「そんな、寧ろ逆に嬉しいですから‥♪
 すみませんでした 驚かせて」

「いえ、こちらこそ。
 ‥ジギー・ペッパーは、こういう事は聞かないんですね」

「ええ‥食べられるものとか、お腹が空いたかどうかとかいうのは 聞かれたこと無いです」

私の隣を無言で歩くジギーの姿を思い出し、つい顔がほころぶ。
ジギーにも、ジギーなりの優しさや気遣いってしっかりあるんだけど‥‥
それは ゴーシュさんの それ とは似ても似つかぬようなモノ。

「疑問なんですが‥
 あなたに聞かないで、彼はいつもどうしてるんです?」

「え?」

「お腹か空いてるかどうか なんて、本人が直接言うか、こちらから聞くかしなければ解らないような‥。
 リーシャはいつも自分から言ってきますが、リリィは‥‥言わないですよね、たぶん。
 今もそうでしたし」

「え、ええ‥‥まぁ‥」

図星を突かれ、返答に口ごもる。

「そうですね‥‥
 ジギーは、いつも“何を食べたい?”しか聞かないですね‥」

「何を、食べたい‥‥?
 仮にリリィが食べたくないとしても、食べたいもの を聞かれるんですか?」

「ええ‥‥まあ‥」

「‥それで?」

「え?」

「リリィは、どう答えるんです?」

「私‥‥?」

ジギーとのデート。
私、いつも何て答えてたかな‥

「んと‥‥
 パスタ、とか、イタリアン、とか」

「食べたくない時は‥?」

「え‥‥」

「まさか、いらない とは言わないでしょう?」

「え、ええ‥
 そんなにお腹空いてないときは、軽いもの とか、なんでもいい、とか‥‥」

ゴーシュさんの突っ込んだ問いかけに、少したじたじとしてしまう。
そ、そんなに物珍しいかしら?

「それだけで、食事先を決めてるんですか。彼は」

「ええ」

「へぇ‥‥。 面白いですね」

神妙な顔をして考え込んでいたかと思えば、次には楽しそうに語調が上がる。

「‥‥面白い?」

「はい。 とても面白いです。
 あの無口なジギー・ペッパーが、あなたにそんな心遣いをしているとは。
 彼は、よく見ていますね。 あなたの事」

「‥え?」

「リリィの事ですから、相手に合わせる意思もあって 幅広いジャンル や なんでもいい という答え方をするんでしょうけど。
 それだけじゃ、リリィが何を望んでるかなんて普通は解りませんよ。
 ‥リーシャは、わがままでも何でもですが自分の希望はちゃんと言ってくれますからね。
 そこがまた可愛らしいんですが」

そこまで言うと、ゴーシュさんは一旦言葉を切って微笑んだ。


「 ジギー・ペッパーは‥
  あなたの事を、本当に大切に想っているんですね 」


「‥‥‥‥」


  『――‥何が食べたい? リリィ』

  『ん‥‥なんでもいい。
   ジギーが食べたいものがあるお店がいい』

  『‥‥‥そうか』


‥思い起こされる、ジギーとの柔らかなひととき。


  『‥カフェ‥‥?
   ジギー、ご飯 食べないの‥?』

  『‥‥そうだな』

  『お腹、空かない‥?』

  『ああ』

  『それなら いいけど‥』


ジギーはいつもそうやって、聞かない・言わない気遣い をしてくれる。
私に合わせてくれてるんだって、内心で解ってはいたけれど‥
まさか、こんな――‥


  ‥ジギー‥‥‥。


「‥‥まさか、ゴーシュさんに そんなこと言われるなんて、思わなかった」

「え?」

「ジギーとは、あまり仲良くないんだとばっかり思ってたから」

「ああ‥そういえば、そうですね。
 何故か彼には遠ざけられます。
 とかく一方的に」

ジギーにあれこれと構いかける、楽しそうなゴーシュさん。
それを受けて、眉間に皺(しわ)寄せた渋い顔をするジギー‥
ゴーシュさんとジギーの二人が揃えば、大抵はそんな図が繰り広げられる。
それが、私やリーシャには面白おかしくて―‥


  掛け替えのない、大切なひととき


「‥ふふっ。
 ‥お昼に、しましょうか。
 ゴーシュさんの方が、お腹空いたでしょ」

「そうですね。
 お付き合い頂けますか?」

「はい‥♪」

何故か彼には―‥なんて、解りきった理由。
ゴーシュさんとジギーは、全然タイプが違うから。
だからジギーは‥‥なんて、そんな言葉を飲み込んで、私たちはお昼を食べに飲食店の立ち並ぶ中央道へと歩いていった。

*****☆*****☆*****

過去はゴーシュ&リリィのデート、お昼前のヒトコマ。
ゴーシュとジギーを対比させてみました。
二人のタイプの違いさ加減がよく解りますね(*ノノ)

現在は、博士の去ったその後。
二人はもうしばらくお茶していくようです。

そして、相変わらず 相方ヒロイン リーシャ の名前がガンガンと出てきます。
シリーズ冒頭で、リリィが何故 リーシャをひっ叩くほど激怒したのか‥‥
シリーズ通して読んで、ご理解いただけたら幸いです。

Tue.29.Nov.2011
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