珍しい組み合わせだな、こんな所で―‥


場に似合わない声が響き、思わず振り向く。

「 博士! 」「あ、博士」

驚く私と親しげに呼び掛けるゴーシュさんの声が同時に声主の肩書きを呼ぶ。
突然たる来訪者は、隻眼に白衣の男性―‥Dr.サンダーランドJr.だった。

「なんだ、スエード。
 今日は早帰りだとは聞いていたが、その理由はこういう事だったのか」

「いえ、たまたまですよ。
 帰り際にたまたまリリィと鉢合わせたんです」

私たちのいる席は通り沿いのテラス席。
ちょうど柵のすぐ真横で。

「リリィと一緒するなんて久しぶりですからね。
 ‥で、たまにはお茶でも〜という流れになりまして」

店内のゴーシュさんと店外の博士が柵を挟んで話し合う。
―‥が。
私たち周辺その場の雰囲気が、博士の登場によって一気に急変。
辺りを見渡せば 私たちから離れた別の席に移るお客もいれば、そそくさと退店してしまう人たちまで出始める始末‥


 うっ‥‥
 こ、これはマズい‥っ
 非常にマズいわっ‥!!


それもそのはず。
迫力のある黒い眼帯と着崩した白衣 は、まあ いつもの事だけに数歩くらいは譲るとしても‥
博士ってば、調査中なのかなんなのか 手袋の上にアームカバーなんかして腕全体まで隠してるわ、大きなマスクで顔半分は覆面状態。
オマケに怪しげな袋を持ち歩いて―‥
あの袋の中身って 確実に 動物たちの死骸 じゃない!?!

「―‥という事情もありましてですね、ここの所はリリィと―‥」


「 ちょっと 博士!? 」


「‥え。」

話続けている二人の間に、強引に割って入る。
驚いたゴーシュさんが私の方を振り向いた。

「ど、どうかしたんですか?
 突然そんな大声出して‥」


「どうしたもこうしたも無いわよ!!
 博士!?
 ここ、喫茶店ですよ!?
 一体 何を考えてるんですか!!
 そんなもの 持って そんな格好 して、こんなとこ 然(さ)もが如くうろつかないでください!!!」


立ち上がって怒濤(どとう)の如く捲し立てても 何処吹く風。
次には何食わぬ顔をした博士の言葉が返ってくる。

「‥ふん。
 衛生対策と感染防止はきちんとしている。
 お前にそうまで言われる筋合いはない」

「衛生とか感染とか、そういう問題じゃあありません!!
 お店に迷惑だと言ってるんです!」

「店に迷惑だと‥‥?」


「 お お い に め い わ く です!!
  形(なり)を考えてください、形を! 」


身なりを考えろ と抗議などした結果は、といえば。


「 この万全なPPEの、何処に落ち度があると?
  強いて上げるとすればレスピレータはN99ではあるが、レジスタントやプルーフである必要性は無いと判断した故だ。
 未知の感染症への危険対策として性能数値99を採用、シールチェックも通過している。
 私は自らが感染経路になるようなヘマなどせん 」


それを聞いた瞬間、一気に脱力。
何を考えている ではなく、何も考えていない の間違いだったと悟った。

「 だから、そういう問題じゃあないと言っているんですっっ
  個人防護用具が云々だなんて誰も聞いちゃいないわよ!! 」

ぴーぴーいー だの えぬきゅーじゅーきゅー だの何だの、医療用語なんか出されたって理解できる人の方が少ないってば‥っ

「私は 博士のその格好が客商売 尚且つ飲食店に出向く出で立ちですか と言っているんです!
 だいたい そんな一部の関係者にしか解らないような専門用語並べて当然のように論説とかしないでくださいっっ」

「こ、こじん?ぼ‥‥?
 リリィ、解るんですか‥?」

途中から黙って聞いていたゴーシュさんが今になって横槍を刺す。

「伊達に医療班のアシスタントに回されてないわよっ
 というか、ゴーシュさんも!!
 悠長に話してていい情況じゃないですよ!?」

「え‥」

「周りを見てください!
 お客さんたち、博士 見て逃げちゃったじゃないですか!!
 お店の人も困ってるし!!」

そう言って伸ばした手で指し示した先には 困却(こんきゃく)顔をした女性店員さんが二人、私たちの席から少し離れて立っていた。

「博士は見た目が迫力ある上に、タダでさえあまりよろしくないデマが出回ってるんですからっ
 それに拍車をかけるようなことしないでください!!」

一気に言い切ると、周りを見渡したゴーシュさんがやっと困ったような顔を見せた。

「時、既に遅し‥‥と言った感じですね。申し訳ない。
 ‥博士は、この後は何処へ?」

「研究室へ戻る。
 サンプルは粗方収集し終えたからな」

「そうですか。
 僕たちはもう少しここでお茶していきますね。
 店に迷惑を掛けたようですし、その分の釈明もありますから」

「‥‥そうか。
 お前に頼まれていた地質解析の件、既に結果が上がっている。
 明日の朝にでも研究室に来い」

「解りました。ありがとうございます、博士」

ゴーシュさんが軽く会釈をすると、サンダーランドJr.博士は ちらりと私の方を長し見た。

「‥‥フォルトゥーナ」

「何でしょうか」

「今夜、戻るそうだ」

「え‥」


「ハリーが伝令を持ってきた」


「‥‥!」

‥それは、郵便館唯一である速達BEEの帰還を予告する言葉。

「‥‥‥そうですか」

浮き立つ心を抑えて返すは、冷めた平素の返事。

「‥‥‥」

そんな私を、何を思っているのか 無言でじっと見つめ返す、躯(むくろ)博士。

「‥‥何か?」


「‥俺も、然して館長と変わらんな」


「は‥‥?」

「独り言だ。
 ‥では、な」

くるりと背中を見せて、この場から離れていこうとする。


「‥‥‥。博士」


次に彼を呼んだのは、私の方だった。
立ち止まり、顔だけが斜めに振り返る。


「‥星屑の噴水の方にある、木洩れ悲(び)の森。
 奥の泉に、行ってみてください」


「木洩れ悲の森にある泉‥だと‥‥?
 そこに 何がある」

「‥‥さあ‥?」

「何‥‥?」

「ご自身の眼で、見ていらしたらいいじゃないですか」

「‥‥。‥‥‥ふん」

再び、風に白衣がなびく。
Dr.サンダーランドJr.は、そのまま二度は振り返ることなく 私たちの前から立ち去っていった−‥。

*****☆*****☆*****

現れたのは、博士 でした☆
‥となっ(*ノノ)
ジギーかなって思った方、ごめんなさいっ

さてさて。
また新しい でっち上げスポット が出てきました(屍)
木洩れ悲の森−‥ウチの夢でよく待ち合わせ場所にされている 星屑の噴水 の脇にある 薄暗い森 です(*ノノ)
これもまた、何処かのストーリーで詳細が出てくるでしょう。

医療用語の補足は‥‥‥
めんどっこいからとりあえず省く!(をいっ
書けやゴルァ!! ‥とメッセでも来たら用語集にでも追記しときます(屍)

Tue.15.Nov.2011
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