ゴーシュさんと並んで噴水広場を歩き出した直後の事。
肝心なことをまだ聞いていなかったな と、ふと思い出した。

「‥ところで、ゴーシュさん」

立ち止まって右隣を見上げれば、彼の柔らかい眼差しと視線が繋がった。

「なんでしょうか?」

「いえ、あの‥
 なんでしょうか は、私の台詞ですよ?
 ‥ふふっ」

当の目的をすっかり忘れているような返答が可笑しくて、つい笑い声が零れる。

「今日、ゴーシュさんが私をデートに誘った本当の理由は、なんでしょうか?
 ‥ってね♪」

人差し指を口許に、くすくすと笑いながら悪戯に問い掛けた。

「今日リリィを誘った、本当の理由‥ですか?」

皆目見当がつかない といった不思議そうな顔。
もう、ゴーシュさんってば。
これじゃ、本当に今日一日普通にデートして終わっちゃいそうじゃないの。

「だ・か・ら!
 今日はプレゼント選びに行くんでしょう?
 ゴーシュさんが 独りで選べないもの なんて、一体 何を買うつもりなんです?」

「あ‥!」

私の方から切り出せば、ゴーシュさんは思い出したような声を上げた。

「そういえば、まだ言っていませんでしたね。
 うっかりしていました」

「もう、ゴーシュさんてば。
 それが解らなきゃ私も案内の仕様が無いですよ?
 ‥ふふっ」

ほのぼのさ加減も、相 変わらず。
傍らでくすくす笑っていると、ゴーシュさんが照れながら今日の目的を教えてくれた。

「えっと、ですね‥
 実は、下着をプレゼントしたいんです」

「‥え。下着‥‥?」

返ってきた意外な返答に、口から復唱が突いて出た。

「ええ。
 リーシャの好みのアドバイスをしていただきたいのももちろんのことなんですが‥
 何より、男の僕一人では、選びにくいものですし。
 気にして探したこともなかったので そういうものが置いてある店も解らない。
 だから リリィに‥と思ったんです。
 リーシャの好みを知っている女性‥となると、貴女くらいしか思い浮かばなくて」

だから あの日、私に声を掛けて無理矢理にまで休暇を合わせた―‥
なるほど、納得。
リーシャのお友達なら私の他にも一人二人いたような気もしないでもないけど‥
確かに、私が一番仲良くしてもらってるわね。
あの娘、交友関係はほど狭いから。
‥ヒトの事 言えた義理でも無いけどね。

それにしても―‥

「誕生日に 下着のプレゼント、かあ。
 リーシャ、いいなぁ」

「‥そうですか?」

「ええ、とっても。
 プレゼントに下着って、モノがモノだけに 選ぶのにも買うのにもハードルの高い贈り物ですよ。
 ましてや、男性が女性へのプレゼントに、だなんて‥‥。
 凄く素敵。憧れちゃいます」


もし‥
もし、大好きなジギーから 彼の選んだ彼好みの下着 なんかをプレゼントされたら――‥。

そんな非現実的な空想が頭に思い描かれ、微熱に融けていく甘い感覚が胸に広がる。


 やだ‥‥私ったら‥。


思わず両手を頬にあてた。


「 ジギー・ペッパーは、プレゼントしてくれたりはしないんですか? 」


そんな中で聞こえたゴーシュさんの問い掛けに、思考が真っ白に塗り替えられた。

「‥何を?」

質問の意味が直ぐに理解できなくて聞き返せば―‥


「 いえ、だから、下着を。 」


 ‥‥!!?!


「や、やだ!! ゴーシュさんっっ
 私とジギーは、まだそんなんじゃ‥!!」
追って受けた言葉からようやく質問の意図を解した私は、大慌てで否定の返事をする。

ジギーは下着のプレゼントをしてはくれないのか―‥

まさか そんな赤裸々な事を聞かれるなどとは思ってもおらず。
先程まで思い浮かんでいた 甘美な幻想 がゴーシュさんに覗かれてしまったように感じて、みるみると顔が真っ赤になっていくのが自分自身でもよく解った。

「ああ、そうでしたね。
 貴女とジギー・ペッパーはまだ‥。
 すみません、リリィがあまりにも愛おしそうな顔をするものだから、つい‥」

「やだ、もう‥っ
 ゴーシュさんてば‥っ!」

「ふふ。
 リリィのこんな可愛い姿、初めて見ましたよ。
 もっと構いたくなってしまいますね」

「も、もう!!
 ゴーシュさんの意地悪っっ」


 び‥びっくりした‥‥‥。
 ゴーシュさんってば、いきなりなんだから‥!


一人であたふたとしている私を見つめ、私のすぐ隣で親友の恋人が優しげに笑う。
‥ジギーと私。
ゴーシュさんの瞳には、どんなカップルに見えているのかな。


「‥ジギーは、ゴーシュさんみたいに気の回るタイプじゃないですよ」


「え‥?」

ふっと突いて出た言葉。
‥そう。
ジギーは、優しい気遣いのできるタイプじゃない。
女の子の扱い方も下手‥だから。

「彼とは まだそんなんじゃない ってのもありますけど‥
 ジギーが、女性の下着なんて、そんなもの プレゼントに選ぶと思います?
 現実問題的に。」

思ったことを口にすれば、ゴーシュさんは首をかしげて考える。

「う〜ん‥
 言われてみれば、そうですね‥。
 かなり似合わないような気もします」

「‥でしょ?」

ジギーが女性の下着を手にしている姿―‥
あの仏頂面で、売り場の店員さんにどうやってアドバイスを求めるつもりかしら。
ううん‥それ以前に、きっと 下着が並んだ商品棚を直視できないと思う。
もしかしたら、お店に入る事すら躊躇うんじゃない?

想像するだけでも面白可笑しくて、ついつい声を震わせて笑ってしまう。


「‥だから。
 なおさら、憧れるの」


ひとしきりにくすくすと笑い、可笑しさが落ち着いた後。
ゴーシュさんに聞こえないように ぽつりと呟いた。

「‥え‥?」

「ううん。何でもない。
 気にしないでください‥♪」

僅かに漏れた疑問符に、にこにこと笑顔で返した。

‥やっぱり、下着のプレゼントに憧れるのは私の本心。
別に、プレゼントに高級な下着が欲しいわけじゃない。
ただ、そういうシチュエーション というものに憧れるだけ。

「‥さて。
 これで 今日の目的 がはっきりしたわね。
 買うものは、女性用の下着。
 行きましょう、ゴーシュさん♪」

数歩ほど先に足を進め、振り返りながら今日のパートナーに笑いかける。

「数軒あるの、お勧めのお店。
 お時間はたくさんあるから、幾つか見て回りましょう」

後ろ向きに歩きながら手を伸ばし、早く来て と催促をすると、ゴーシュさんは穏やかに微笑みながら歩き出す。

「‥そうですね。
 今日は よろしくお願いします、リリィ」

「はい‥♪」

―‥最初に向かう先は、夜想道沿いのお店‥かな。
素敵なプレゼント、見つかるといいな‥♪

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