――‥約束の日から二日後、九刻半。

私は、ゴーシュさんの リーシャへのプレゼント選び に付き合うべく、大慌てで出掛ける身支度をしていた。

「やん!!! もうこんなお時間!?!
 遅刻しちゃう!!!」

部屋の中を右往左往とばたばた走り回りながら装いを揃え小物を見繕い、髪の乱れを直しながらバッグをひっつかんで飛び出した。


――セントラル中央、星屑の噴水。

「ちょっと遅れちゃった‥!!
 ゴーシュさん、もう来てるかな‥」

落ち着かない息を弾ませ、噴水広場をぐるりと見渡す。


 ‥あ、いた!


待ち人 来たりて何とやら―‥私の探していた 約束の人 は、既にその場で待機していた。
噴水の縁石に腰かけて、空を仰いでいるのが見える。


「 ゴーシュさん!! 」


名前を呼びながら走っていくと、彼はこちらに気がついて立ち上がった。

「おはようございます、ゴーシュさん。
 ごめんなさい、遅れちゃって‥!!」

「おはようございます、リリィ。
 ‥走って来たんですか?」

「お風呂してたら、のんびりしすぎちゃって‥‥。
 本当にごめんなさい‥っ」

お風呂していて遅刻とは、自己中心的にも程がある。
全くの平謝り状態だ。

「そんなに慌てなくても良かったのに。
 休みの日に突然都合をつけろと言い出したのは僕の方ですし。
 すみません、気を遣わせて」

‥何故か、逆に謝られてしまった。

「いえ!! そんな‥!
 遅刻したのは私ですから!!
 悪いのは私ですっっ」


 な‥なんか‥‥
 ゴーシュさん、優しい。
 ジギーもすごく優しいけど‥
 ジギーとは違う、優しさだわ‥。


ジギーは 優しい というよりも、sweet‥甘い という表現が似合う。
だけど、ゴーシュさんは 優しい―‥gentle という感じだ。

「リリィが悪い、なんてことはないですよ。
 こうして、ちゃんと来てくれたんですから。
 しかし―‥‥」

「‥‥え?」

不意に言葉を切ったかと思えば、無遠慮にまじまじと見つめられる。
そして、次の台詞に思わずたじろいだ。


「 ‥‥可愛らしいですね 」


 ‥‥‥え‥。


その時の私は、パフスリーブの花柄ワンピースに紅いパンプスを合わせ、真珠の髪飾りと薔薇のイヤリングでその身を飾っていた。

「私服のリリィを、このように間近で見るのは初めてですが〜
 制服姿の貴女とは、雰囲気が大違いです。
 すごく、可愛らしい」


  う、うわ‥‥‥


率直に感想を、しかも 可愛らしい などとストレートに言われ‥
込み上げてくる恥ずかしさにどんどんと顔が紅くなっていってしまう。

「あ‥‥ありがとう‥‥」

戸惑いと恥ずかしさから、胸がどきどきと音を立てる。
意識的に落ち着こうと思えば思うほど、それは逆効果で―‥。


  ジ‥ジギーと、だいぶ違う。。
  こんな、直に感想言われるなんて。
  館長はいつもからかって色々と言ってくるけど、まさかゴーシュさんにまで 可愛い とか言われるなんて‥
  なんか、恥ずかしい‥‥。


「‥リリィ?
 どうか、しましたか‥?」

内心であたふたしている事が、游ぐ視線に表れてしまった。
ゴーシュさんが訝しげな顔をする。

「い、いえ‥っ
 なんでもないですっっ
 気にしないでください」

「‥‥?」

「‥そ、そろそろ行きましょうか。
 お店まで案内しますね。」

「あ、はい。 よろしくお願いします」

取り繕って誤魔化しながら歩き出すと、ゴーシュさんが私の右側に追って付いた。
二人並んで、夜想道を歩いていく。
ときどき触れる彼の腕が、二人の距離の近さを感じさせる。

「そういえば‥」

「え?」

「こうして、休日にリリィと二人で出掛けるのは初めてですね」

「あ‥‥
 そういえば、そうですね。
 お仕事帰りに送って頂いたりしたくらいでしたよね。
 それも、リーシャとゴーシュさんがお付き合いし始める前に」

「ええ」

「‥ふふっ」

「どうかしましたか?」

「ゴーシュさん、いつもリーシャの隣にいるイメージしかないんですもん。
 それが今日は、私の隣にいる。
 何だか不思議だな、って思って」

少し頬を緩めたら、次から次へと微笑みが零れ出す。
こんな目一杯に笑うつもりなんてなかったのに。

「そう、ですね。‥ふふ」

くすくすと空気を震わせていれば、ゴーシュさんまでもがふっと柔らかく微笑む。
敷石を鳴らす私たちの足音は、一時の間 二人の優しげな笑い声との四重奏になった。

*****☆*****☆*****

お仕事帰りのカフェ・シーン&想い出話の待ち合わせシーン の巻。
現在と過去の同時進行です(笑)
アフタヌーン・ティーに関しての補足は劇中でリリィが解説しているので割愛いたしますねっ(*ノノ)

まだまだ続きます!

Sun.12.Jun.2011
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