オーダーをしてから暫くの間ゴーシュさんとお喋りをしていると、頼んだスイーツとドリンクが運ばれてきた。

「お待たせ致しました。
 こちら、恋人たちのアフタヌーン にございます」

店員さんが私たちの前に、軽食やデザートの乗せられた大きなスタンドを置く。
続いて 小皿、お洒落なティー・ポットとカップが二つづつ置かれた。

「こちらが、ロサの華茶にございます。
 ‥ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

「はい。 ありがとうございます」

「ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」

ゴーシュさんがお礼を告げると、店員さんは一礼を残し席を後にした。


「これは‥‥また、凄いですね」


店員さんが立ち去った後、一呼吸置いてゴーシュさんが感心したように呟く。

「‥ん? 凄い‥‥?
 何がですか?」

言葉の意味が解らず、鸚鵡(おうむ)返しのように問い掛けた。

「いえ‥
 食べ物がこんな大きなオブジェに並べて出されるとは、思ってもみませんでした。
 量も種類も、とてもたくさんありますし」

ゴーシュさんは、目の前にある オブジェ をしげしげと見つめている。
彼の瞳を釘付けにしている それ は、アフタヌーン・ティーに用いられる ティー・スタンド。
三段仕様になっており、一番下にサンドイッチのお皿、真ん中にはスコーンとワッフル、ジャムとクリームの乗せられたお皿がセットされており、一番上には小さなケーキが四つほど可愛らしく並んでいた。

「‥‥?
 もしかして ゴーシュさん、アフタヌーン・ティーって初めてだったりします?」

「アフタヌーン・ティー‥ですか?」

「ええ」

こくりと頷くと、ゴーシュさんは首を振りながら肯定の言葉を口にした。

「‥すみません。
 恥ずかしながら、聞いたことすら‥。
 お茶の一種‥ですか?」

「お茶の一種、というか‥‥
 これ、ティー・スタンドって言うんですけど―‥」

テーブルに置かれている オブジェ に視線を向ける。

「ティー・フーズと呼ばれる軽食やデザート類を乗せるの。
 それ を紅茶と一緒に頂くのが、アフタヌーン・ティー。
 昔の上流階級の人たちの喫茶習慣ですね」

自分の知っている限りではあるものの、目の前の物体などの事を少しばかり説明する。
ゴーシュさんは、興味津々とばかりに真剣に聞いていた。

「なるほど‥‥。
 しかし、喫茶にしては少し量が多すぎやしませんか?
 下手したら軽い食事レベルな気もしなくもないのですが〜」

「ああ‥アフタヌーン・ティーは、もともとはそういうものですから。
 お食事前の、軽食?みたいなもの」

「食事前の軽食‥?」

「ええ。
 こういう習慣のある人たちは、社交でお夕食が遅いお時間になることが多かったみたいで。
 それまでにお腹すいちゃうから、こんな量だったみたいですよ」

くすくすと笑いながら、ティー・ポットに手を伸ばす。
そろそろ茶葉の開きも頃合いだろう。

「お茶、淹れますね。
 そっちのカップ‥お預かりできます?」

ポットを手前に、自分のカップとゴーシュさんのカップを並べようとすると―‥

「あ、僕が淹れますよ。
 こちらにもポットがありますから」

そう言うと、私の手にしたポットよりも一回りほど小さいもう一つのポットを取った。

「あ、待って。
 それ ただのジャグ・ポットよ」

「ただのジャグ・ポット‥‥?」

「ホット・ウォーター・ジャグ。
 ただのお湯が入ってるだけ。
 ポットの中、見てみて?」

にこにこしながら促すと、ゴーシュさんはポットの蓋を開けた。

「あ‥‥本当だ。
 ただのお湯ですね」

「ええ、ただのお湯です。
 お時間が経ってお茶が濃くなってしまった時の、差し湯の為のお湯ポットなんです」

「へえ‥‥。
 容れたり尽くせりなんですね」

「まあ、そうですね。
 お喋りしながらゆっくりと寛ぐ為のお茶のお時間ですし。
 ―‥はい、どうぞ」

カップにお茶を注ぎ、ゴーシュさんに差し出す。
辺りにふんわりとロサの香りが広がった。

「ありがとうございます。
 しかし‥さすがリリィ、ですね」

「え?」

「こういう事を、ごくごく普通に弁(わきま)えているとか‥
 とても素敵だと思います」

柔らかく微笑まれ、少し頬が熱くなった。

「あ‥ありがとうございます。
 単に好きなだけなんですけどね。
 ほら、あの時のあのお店‥みたいなの、とか。ふふっ」

「ああ‥そういえば、そうですね。
 あのお店については、とても貴女好みだったようで良かったです。
 あの日のリリィは、とても可愛らしくて雰囲気もぴったりでしたし」

「もう、ゴーシュさんてば。うふふっ」

私の照れた微笑みを合図に、再び想い出話が飛び出した。

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