「リリィくん、君‥配達後の直帰と報告は必要時と例外時を除いてはBEEの責務だろう?
規約違反は、よろしくないね」

先ほどと変わらぬ声調子。
だけど―‥

「規約違反なんてしていません!
 歴とした必要性に則っていますし、BEE‐HIVEに迷惑も掛けていません。
 配達もちゃんと基準所要日数内での完了報告はしていま―‥」


「 それ―‥どういう事? 」


優しいながらも事実を詰問するような声音が響く。

「―‥!」

館長の声に目線を正すと、彼は真剣な表情で私を見つめていた。

「君、先々で配達外に一体何してるの」

しまった!! と思った。
‥迂闊だった。
激昂していたからだ。
館長がカマを掛けていた事に、気付かなかった。

「‥‥‥」

昂りが、すうっと引いていった。
‥‥別に、焦ることはない。
ここで変に慌てれば、それこそ館長の思う壺だ。

「だんまり かい?
 また‥独りで危ないことに首を突っ込んでいるんじゃ、ないだろうね?
 ―‥どうなんだい リリィくん」

カタン‥と椅子の音が鳴り、館長が私のすぐ側にまで近付いてくる。。
‥瞳が、笑っていなかった。


 こうなったら‥やるしかないっ


一呼吸して、芝居に出た。
1割の事実を餌とした、大いなる“屁理屈”を以って。

「 何、そんなに怖い顔してるんですか 館長 」

くすり と笑う。

「危ないことに首を突っ込んで、なんていませんよ。
 ちょっと知りたいことがあって調べものをしているだけです。」

「知りたい事?」

「ええ。
 至極、個人的なことなんですけどね」

にこにこしながら、館長を見る。
先程よりも幾分か和らいだ彼の表情から、撒き餌に掛かったことが読める。

―‥嘘は、言ってはいない。

調べもの‥情報収集をしている。
危ないことに首を突っ込んでも、いない。
なんせ ゴーシュさんと初めて出会ったあの日に 私の選んだ道 自体が 危ない道 の他ならない。
それは 私自身が既に危ない道の上を歩いている だけで、わざわざ首を突っ込んでいる ことにはならないだけに、両者は等号符では結べない。

ああ言えば、こう言う。
この後の館長の台詞は、決まっている。


「個人的なこと、か。‥ふむ。
 よければ、教えてくれないかい?
 僕が助力できることなら、協力するよ?」


‥やっぱり、こう来るのよね。
だからこその、撒き餌。
芝居は これから だ。

「いえ、遠慮しておきます」

「どうして?」

「どうして、って。
 そんなこと、聞かないでください」

触れられそうくらいに近くにいる館長。
ふい、とわざと視線を外す。

「聞かないで と言われると、知りたくなるね。」

柔らかい眼差しで私の髪を梳く。

「もう‥‥。
 館長も懲りない人ですね」

「ははっ。
 いまさら、だよ リリィくん。
 で、何なんだい?」


「‥だからっ
 聞かないでください、って言ってるじゃないですか!
 そんな恥ずかしい事、女の子の私に言わせないでください!」


「 え‥ 」


「 好き だの 可愛い だの、いっつも私の事からかうくせに!
  もう知らない!! 館長の馬鹿っ 」

膨れっ面を見せてから、館長の前から駆け出す。

「あ、ちょっと!! リリィくん!?」


  ごめんなさい、館長―‥。


館長の慌てるような声を後目に、私は館長室を後にした。


「‥‥何が、そんな恥ずかしい事 なんだかね。
 我ながら馬鹿馬鹿しいったりゃありゃしないわ」


‥腐っても鯛 ならぬ、腐っても役者。
昔から芝居は得手の一つだった。
特に、相手に気付かれないように己の創り出した世界に引き込む のは得意で―‥

「でも まさか‥
 こんな使い方、するとは思わなかった」

自嘲の溜め息をつきながら、ホールの階段を降りる。

「とりあえず、今日はもう帰ろ‥‥。」

明日はエクシオに行かなきゃならない。
直行して配達完了後に集荷するくらいなら、発つ前に集荷確認しに来よう。そうすれば次の分があればまとめて配ってしまえる―‥
館長の蛇足から遅れた分を取り戻す為、そんな段取りをしながら帰路についた。


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