――コン コン コン‥――


‥乾いた音が聞こえる。
私の家の、扉を叩く音。


 ――‥コン コン コン――


無視していたら、再度ノックの音がした。

「‥誰。」

ぶっきらぼうに答える。


「‥‥俺だ」


少し間を置いて聞こえたのは‥‥
大好きな、ジギーの声。

「‥‥ごめん。ジギー。
 今日は、帰って。」

かんぬき をかけたまま、扉に背中を預けて答えた。
‥‥今日は、逢いたくない。

「‥開けてくれないか。
 顔が、見たい。リリィ」

「‥‥‥」

「‥リリィ」

「 ‥嫌 」

「‥‥‥‥。」

食い下がったら、ジギーの方が黙り込んでしまった。

「明日」

「‥え?」

「明日の朝、配達に出る」


 えっ‥‥‥


「‥‥今日、戻ってきたばかりなのに?」
「ああ」

「‥そう。」


「‥‥‥配達に出る前に‥
 お前の顔を見ておきたいんだ」


さっきよりも、ずっとずっと 優しい声。

「‥顔なら、昼間に見たじゃない。
 私のもゴーシュさんのも、‥あの娘のも」

「リリィ‥」

「 帰って。 
 ‥次に会えるの、楽しみにしてる」

「‥‥」

「‥配達、気を付けてね」

逢えるときに逢っておかないと、次はいつ逢えるのか解らない。
それは重々に解っている。

「リリィ」


‥それでも、逢いたくなかった。


「開けてくれ。
 ‥‥頼む」


‥‥否。
逢いたい。
凄く逢いたい。


「‥‥リリィ」


逢って、抱き締めてほしい。
キスしてほしい。


「‥‥‥‥‥」


でも‥
逢えない と、思った。


 こんな顔して―‥


「‥‥俺のことも、怒っているのか?」

「‥!?
 そんなわけない。
 何もしてないジギーの事、怒るわけないじゃない‥っ」

「‥じゃあ、どうして」

顔を見せてはくれないんだ、と声が響く。
そんなこと―‥

「‥‥ごめん。
 苛々して頭の中ぐちゃぐちゃだから、駄目。
 ジギーに当たりたくない」

「別に、俺は構わない」

「私が構う」


「いや。構わない。
 ‥‥お前に逢えない辛さに比べたら、
 そんなこと塵にも気にならない」


「‥‥‥」

「‥俺に逢いたくないんじゃなかったら、ここを開けてくれ。
 ‥リリィを、抱きたい」

「‥‥‥馬鹿‥。」


 ――カラン‥‥カチャッ‥――


仕方無しに手を掛けた、私とジギーを隔てる板扉の向こうには‥
キツイ瞳に優しい光を湛えた彼がいた。

「‥‥そんな風に言われたら、開けないわけにいかないじゃない‥馬鹿。」

「リリィ‥」

「逢いたくないわけ、あるはずない。
 ‥‥‥逢いたかった。
 凄く凄く、逢いたかった‥‥ジギー‥」

彼の胸に額を埋めると、ジギーはとても強く抱き締めてくれた。

「‥‥俺もだ。
 ‥逢いたかった。
 リリィ‥‥やっと、お前に逢えた」

つっ‥と絡みあった視線が、合図だった。

「 おかえりなさい、ジギー 」


深く甘いキスが降る。


「 ああ。
  ただいま。リリィ 」


久方ぶりに慈しまれる、二人の緩やかなひとときが訪れた。



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