「何で、あんなに怒るの…?」

ベッドに寝ころんで、私はリリィに言われた事を思い出していた。

『リーシャ、あんた自分を何様だと思ってんの?ふざけるのも大概にしなさい。自分のした事をよく考える事ね』

とっても怒っていたリリィ。あんなに冷たい目、初めて見た…。いつもの柔らかい微笑みが消え去った彼女は、とても怖くて…。思わず近くにいたジギーにしがみついてしまった。彼女は今頃、私の事をもう見捨てているのかもしれない。

それに…と思う。いつもなら私の事を助けてくれるゴーシュも、今回はただ見ているだけだった。そして、最後にはリリィを追いかけて…。やっぱり、こんな私なんかより、リリィの方がいいんだね。

まあ、それも当たり前なのかもしれない。そもそも、最初からおかしかったんだ。ゴーシュほどの優しくてかっこよくて素敵な人が、大して可愛くなくて何の取り柄もない平凡な私を選ぶなんて…。きっと、何かの間違いだったんだ。もしくは、私への同情?だとしたら私、最低だ。ずっとゴーシュを私なんかに縛り付けてたんだから。

「私なんか、いなければよかったな…」

そうすれば、こんなに苦しくてつらい思いをしなくて済んだのに。私なんかがいるから、ゴーシュは我慢している。私なんか、いなくなればいい。ある決意を秘めて、ベッドから降りて歩き出す。

「………」

向かった先はキッチンで、取り出したのは料理に使う包丁。明かりに照らされ、刃が鈍い銀色に光る。私は左胸に包丁を突きつけた。

「これで、楽になれるのかな…?」

目を閉じて自分に突き刺そうと、腕を動かす………つもりだった。でも、できなかった。

痛みに対する恐怖もある。だけど、それ以上にゴーシュともう会えなくなるのが嫌だった。今ここで死んだら、二度とゴーシュに会えなくなる…。

私はずるずると力なく座り込んだ。包丁を横に置いて、膝を抱える。

「ゴーシュ…、会いたいよ…」

私の事、もう好きじゃなくてもいい。ただ会って、その笑顔を私に見せてほしい。ゴーシュ、私はずっと大好きだよ…。

その夜、私は泣き疲れて眠った。この世界でたった一人きりになってしまった悲しさを感じながら…。



翌朝、腫れぼったい目元を隠すために帽子を深くかぶってハチノスへと出勤した。

「あ…」

ロビーの所で、ゴーシュと恥ずかしそうに頬を赤く染めたリリィが仲良く笑い合ってる姿が目に入る。思わず止まる足。

「………」

またリリィに冷たい目で見られるのが怖くて、私は急ぎ足で通り過ぎる。二人が私に声をかける事はなかった…。



「今日も疲れたな…」

その日の配達を終えて、私はハチノスまで戻ってきていた。ここ数日の出来事によって、あまりハチノスにはいたくないけど、仕事だからしょうがない。

「さっさと帰ろう」

私が帰るために階段を降り始めた所で、ちょうど階段を上ってくるゴーシュの姿が見えた。

「あ、ゴーシュ…」

今なら彼一人だから、話しかけてみよう。そう決意する。ところが、その決意はあっさりと崩壊した。ちらりと私を一瞥したゴーシュが、無言で私の横を通り過ぎた事によって。

「………え?何で?」

ショックを受けて固まってしまった私は、しばらくしてようやく現実を認識した。ゴーシュが私を避けたという現実を。

その後、どうやって家に帰ったのかも覚えていない。気が付いたら、我が家のベッドで横になっていた。

「ゴーシュ…」

今日私を避けた彼を想う。やっぱり、私は嫌われてたんだ。分かっていた事とは言え、現実に起こると想像していた以上のショックだった。

「私って本当、馬鹿だよね…。あの日、何も見なければよかった…」

思い出しただけでも痛む胸に、自嘲を零す。知らなければ、今もゴーシュの隣で笑っていられただろうに。これからは、この痛みにも慣れないといけないんだね…。


*****☆*****☆*****

今日は面白いものを見たね。
ゴーシュとリーシャくん、喧嘩でもしたのかな?
珍しいこともある事だね。
まあ、喧嘩するほど仲が良い ともいうけどね。

  from ラルゴ・ロイド

Thu.26.May.2011
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