「失礼します」

「やぁ、リリィくん。
 今日は遅かったね。
 ‥っと―‥」

扉を開けて中に入ると、部屋の主―‥ロイド館長は 私の姿に引き続き、すかさずゴーシュさんの姿をも認知する。

「‥君も一緒か、ゴーシュ・スエード。
 ――‥?
 ‥‥どうかしたのかい? 二人とも」

私たちの纏う異様な雰囲気にも気付いたようだった。

「別に何もありませんよ。
 それより、館長。
 今回の呼び出しは何用ですか」

重ね挨拶をするゴーシュさんを先置きに、言葉を続けた。

「いつもながら慌ただしいね、リリィくんは」

「慌ただしくて結構。
 忙しいんですから、ご用がないのでしたらお暇させていただきますけど」

「―‥今日は妙に刺々しいね。
 本当に、何かあったのかい?」

私の顔を除き込むと、ふっとゴーシュさんの方に視線を向ける。
館長はゴーシュさんに問いかけているようだったけれど、私が睨むとゴーシュさんは両手を平にして お手上げ を示した。

「何もありません」

「‥‥そう、かい?
 それならいいんだけど‥」

「‥それで、ご用は何でしょうか」

「ああ。
 雑用なんだけど、リリィくんに少し頼まれて貰おうと思ってね。
 ―‥これ なんだ。」

そう言って館長がデスクから取り出し私の前に差し出したのは、数枚の書類。
受け取って目を通せば、それは備品の発注書だった。

「心弾銃の発注‥‥?
 独奏、二重奏 に 三重奏、四重奏‥って‥
 ‥‥え?
 こっちは、終止曲‥
 ‥‥‥え、これってもしかして―‥」

発注書に綴られていたのは、私にも馴染みのある心弾武器の名称で―‥

「ははっ。
 さすが、リリィくんだ。
 粗方 察しはついただろう?」

‥―それらは、私が良く知る人物が好んで使っているものだった。

「彼には、あの一件で助けられたからね。
 以来、一応は備品として置いておくようにしてるんだ」

「え、でも オーフェンとパトローネは‥‥。」

「ああ、終止曲‥カデンツァの事かな?
 それは彼の好みかもしれないね」

「彼の好みって‥
 こんなもん、いつ使うんですか」

オーフェンやパトローネ‥終止曲シリーズは、俗に言われる ロケット心弾 だ。
こんな場所で安易に発動させれば、郵便館ごときなど跡形もなく軽く吹っ飛ぶ。

「念のため だよ、念のため。
 カデンツァなんて、そうそう使えるもんじゃないよ。
 第一、扱える人間が少ない。
 威力が威力だけに、心の消費量も半端無いからね。
 彼やジギー‥それと、リリィくん。
 君たちくらいじゃないのかい?」

「‥‥‥‥。」

‥‥怪しい。
何かが、怪しい。

「ん?
 リリィくん、どうかした?」

「館長」

「‥ん?」

「何を、企んでるんです」

突然、こんなもの を揃え始め‥
その発注書をわざわざ 私 に託すとは。

何かを、見越している―‥

暗に何かを告げようとしている。
そうとしか、思えなかった。

「‥人聞きが悪いね。
 そんなつもりは、ないよ?」

にこにこと喰えない笑みを浮かべる館長。

「兎に角、だ。
 今朝 君を呼び出したのは、それをお願いする為だったんだ。
 引き受けて―‥くれるね?」

「‥‥。
 シナーズに、寄れば良いんですね」

「うん。
 頼んだよ?」

「解りました」

あの一件が絡んでいるのであれば―‥
ゴーシュさんがいるから、今はなまじ込み入った話は避けたい。
後で全部吐かせてやる―‥
そう思いながら、書類をカバンにしまった。

「館長のご用事はこれだけでしょうか」

「うん。 今日、僕はここを離れられなくてね。
 引き受けてもらえて非常に助かるよ。」

「‥そうですか。
 今日は、私の方からもお願いがあります」

「‥ん?
 リリィくんがお願いとは、珍しいね。
 休暇の話かい?」

「いえ」

否定の言葉を返すと、館長デスクの前まで進む。


「本日付けの、リーシャ・フィゼルへの配当分の配達遅延処理をお願いします」


その旨を願い出ると、館長の目が丸くなる。

「リーシャくんの配当の配達遅延処理?
 彼女、どうかしたのかい?」

「‥リーシャは、体調不良で集荷したまま帰宅しました」

「体調不良で帰宅‥?」

「はい。
 ジギーが、彼女を自宅まで送ってくれています。
 ‥‥ですよね? ゴーシュさん」

私の斜め後ろに控えて事の成り行きを見守っていたゴーシュさんに、煽り見ながら同意を求める。
‥‥否定させるつもりは、なかった。

「‥!
 そう、ですね」

少しだけ鋭く見つめると、気付いたように辻褄(つじつま)を合わせて話し出す。

「三人でいた所に、ちょうど集荷に帰ってきたジギー・ペッパーと鉢合わせまして。
 帰還報告も集荷もまだでしたようなので、手空きついでにリーシャを送り届けてもらったんです。
 僕とリリィは、出頭や配達に出ようとしていたところでしたしね」

ゴーシュさんの巧みな言い種に、内心でほっとする。

「私は呼び出しを受けてて館長室に来る予定があったので、彼女の代わりに遅延処理を と思ったんですが」

視線を館長の方に戻し、ゴーシュさんの台詞を受けて会話を繋ぐ。

「ああ‥それで、リリィくんがリーシャくんの代理で処理手続きに来てくれたんだね。
 助かるよ。ありがとう」

「いえ‥‥」

館長の ありがとう の言葉に、少し胸が痛んで視線を伏せた。
それでも、事態を放置してBEE‐HIVE全体の責任問題になるよりは数千倍も数万倍もマシだ。

「それと‥もう一つ。
 器物破損の始末書を一枚ください」

「え、器物破損‥?」

「一応、後片付けはしてありますが‥
 渡り廊下の窓硝子を割りました。
 ‥すみません」

再び不思議そうな顔をする館長に、深々と頭を下げた。

「窓硝子を割った、って‥‥
 何があったの」

「‥‥すみません」

「いや、そんなに謝らなくても 次から気を付けてくれれば それでいいんだけど‥
 今回は、始末書はいいよ。
 こっちで処理しておくから」

「‥すみません。
 ありがとうございます」

再度、深く頭を下げる。

「今日はやけにしおらしいね‥。
 本当に大丈夫かい? リリィくん」

‥心配そうな声音。
居直れば、館長が微妙な面持ちでこちらを見つめていた。

「別に、何もありませんよ。
 ‥配達、ありますから これで失礼致します」

「あ‥ああ。 いってらっしゃい。
 気を付けるんだよ。」

「ありがとうございます。
 ‥失礼します」

「それでは、僕も失礼します」

軽くお辞儀をして退室の意思を示すと、ゴーシュさんもそれに続いた。

そして 言葉数も少なく郵便館の玄関までを共に歩き、私たちは別れた。
お互いに、分配された手紙の配達へと出掛ける為に―‥。

*****☆*****☆*****
揺らぎシリーズ、explode 完。
激怒したリリィが八つ当たりしたりする話。
お相手はゴーシュですね。

‥さて。
揺らぎシリーズ アザーズ・サイド は、ここから先は回想も兼ねた 甘ーいお話 になってきます。
お相手は 相変わらずゴーシュです。
お楽しみくださいませ☆

そして、以下補足。
‥ごめんなさい。
意味不明な語句がざっくざっく出てます(屍)
詳しくはまた用語集に書きます。
ここでは、ざざっと軽くだけ解説しときますね。

☆独奏・二重奏・三重奏・四重奏
 ‥左から、ソロ・デュオ・トリオ・カルテット と読みます。
  種別から分類していますが、全て 手榴弾 と解釈してください。
  因みに音楽用語としての ○重奏 というのは、十重奏(デクテット)まで存在します。

☆終止曲(カデンツァ)シリーズ
 ‥いわゆる バズーカ です(笑)
  カデンツァ との曲名がつくものは全てバズーカ(ロケット・ランチャー)の類いだと思ってください。
  破壊力抜群たる巨大なロケット弾発射器です。

Sun.8.May.2011
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