リーシャが目前から姿を消した後‥私たちは彼女の歩いていった先を見つめながら、暫くの間 お互いに無言だった。

「‥‥‥」

「‥‥」

‥彼が何を考えているのかは、大体解る。
リーシャに対する、罪悪感。
彼女を傷付けた−‥
ただ、それに対する罪の意識と、悲しみ。辛み。


「‥‥甘すぎるのよ、ゴーシュさんは」


ぽつり と本心を零す。

「守られて、受け入れてもらって、我のままを通して‥‥。
 あの娘は それがどんなに幸せなことか‥どんなに恵まれたことなのか、気付いていない。
 ‥気付こうとも、してない。
 それが当たり前になってる。 
 いつも、いつもいつも‥‥」

「リリィ‥」

ゴーシュさんの瞳が私の姿を捉える。
‥目を合わすつもりは、なかった。
だから、窓の外に顔を背けた。

「それでも‥
 だからといって、あんな言い方−‥」


「あんな言い方は酷すぎる、って?」


「‥え?」

抗議の言葉を口にしようとしたゴーシュさんが それ を言い終わらぬうちに、重ね掛けるようにして問う。

「あんな言い方は酷すぎる。
 あの娘のここ数日から今までの態度と さっきの私を比べて、それでも あれは酷すぎる って‥そう 真っ向から言い切れます?」

窓からゴーシュさんの瞳に、視線を移す。

「‥本当に“傷付いた”のは、どっち ですか」


無意識にでも彼を睨んでいたかもしれない。
それは‥私自身でも解らない。

「ゴーシュさんがあの娘を本当に本当に大切に想って とても愛しているってことは、私にも痛いほど解ります」

‥‥あの日に頂いた、リーリウムの花束 がその証だった。


「そんなこと、ジギーだって解ってる」


ジギーの名前を口にすると、脈絡がないとでも言うように、ゴーシュさんの表情が疑問符へと変わる。

「ジギー・ペッパーが、何故‥?」

「あの日‥ゴーシュさん、私に リーリウムの花束 くださったでしょう?」

「え‥ええ、そうですね」

「ゴーシュさんに送っていただいた後、直ぐにジギーが訪ねてきたんです。
 ゴーシュさんと一緒に出掛けて お花いただいたの って、花束 見せたんですけど‥
 そのとき ジギー、何て言ったと思います?」

「‥彼は何と?」


「 フィゼルに渡すのか? って言ったのよ」


「え‥‥」

「違うわ、私にくださったのよ。って言ったら、何故だ、贈る相手が違うんじゃ無いのか? って不思議そうな顔してた」

「ジギー・ペッパーが、そんな事を‥。」

「ゴーシュさんの気持ちを‥‥
 自分がどれだけ幸せなのか、それが解ってないのは あの娘 だけよ。
 一番、解っていなきゃいけない、当の本人 だけ」

「‥‥‥。」

「‥それでも まだ、酷すぎる って言えます?」

「‥‥すみません‥」

私にまで、申し訳なさそうな顔をするから‥

「別に、構いません」

私の方が恐縮してしまう。
ふっと微笑み掛けると、彼もまた柔らかく微笑んでくれた。

「それでも 言える なんて言われたら、ゴーシュさんの神経 疑うところだった」

「リリィ‥」

「‥なんて、ね。ふふっ。
 こんな優しい人が彼氏だなんて、本当にあの娘は幸せも−‥
 ‥‥!!」

笑いながらゴーシュさんから外した視線を向け先に‥
私の、大切な人の姿 が、見えた。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -