「ゴーシュ‥、リリィ‥」

平淡な女声が私の名前を辿る。
振り向けば、そこには少し離れた場所に蒼い顔をして茫然としている親友がいた。

「リーシャ‥。」

驚いたように、ゴーシュさんが彼女の名前を呼ぶ。

「‥ちょうどいいわ」

‥どうせまた、逃げる のだろう。
だったら、その前に“やる事”がある。

「探す手間が省けた。
 ‥リーシャ。
 あなた一体どういうつもり?
 ここ数日、私たちのことを露骨に避けて‥ゴーシュさんや私に、何がしたいの?
 新手の嫌がらせでもしてるつもり?」

嫌がらせなどしているつもりはない。
そんなことは端から解っている。

「それは‥」

言葉に詰まったまま口ごもるリーシャ。
‥‥何も、言わない。
言えない んだ。

「‥そう。
 何も答えないつもり、なのね。
 いいわよ、粗方想像はつくから」

答えないのなら、こっちが答えてやればいい。

「どうせ、私がゴーシュさんと一緒に歩いてる姿を目撃して 二人は付き合ってるんじゃないか とでも思ってるんでしょ。
 それが現実になるのが怖くて、確かめる事もせずに その場しのぎで逃げ続けて」
‥図星なのだろう。
リーシャの瞳から、大粒の雫が生まれる。
幾つも幾つも生まれ出て、彼女の頬を伝って落ちていく。


「 ‥気がすむまで、勝手にそうしていればいいわ 」


ここまで言っても何も言い返してこないリーシャに、私は 留め とも捉えられる一言を口にした。

「‥‥‥」

それを聞いても尚、彼女はだんまりだった。
隣で 事の成り行き を見守っていたゴーシュさんが、私を止めようと何かを言い掛けたのとほぼ同時だった。
無言のまま、リーシャは私たちに背を向けて歩き出す。

「‥っ! リーシャ‥!」

なから私を制止しようとしていたゴーシュさんが、行動を切り替えて目の前から遠ざかっていくリーシャを追いかけようとする。
‥私は、そんな彼の腕を掴む。

「‥!?」

驚いて向き直った。

「ほっとけばいいの、ゴーシュさん」

ゆるゆると首を横に振りながらも、行かせない と彼の腕を引く力を強めた

「‥少し、懲りた方が良いのよ。あの娘は」

「‥‥‥。」

そう告げると、ゴーシュさんは身体の力を抜いてその場に佇んだ。
リーシャの後ろ姿を、悲しそうな瞳で見つめながら−‥。


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