リリィ と呼ばれ、どびくっとした次の瞬間。


「‥‥大胆な奴」


  ひゃ、ひゃいっ!?


耳元に降る あまぁい囁きとともに、抱きしめられた。

「ジ‥ジ、ジギっ‥ジギー‥っ!?」

「‥何、慌ててる‥?」

「べっ 別に、慌ててなんか‥っ!」

つい口走ってしまった否定の台詞。
自分で言っておいて 馬鹿だ と自嘲するしかないほどの、誰が聞いても解るような あからさまな嘘っぱちで‥。
私の耳を掠める少し弾んだ吐息から、ジギーが笑っているのが解った。


「‥‥愛してる。リリィ」


  えっ‥‥
  ええええぇ――――っ!!!!!


「ど‥どし、どしたの‥?
 いきなり、そんな‥こと‥っ」


「お前を抱いたら、止まらなくなった‥
 それだけだが‥?」


「それだけ、って‥っ」


「‥何をそんなに緊張している‥?」


そう問われたかと思うと‥
耳許に、首筋に、柔らかなくちづけの嵐。
耳朶(じだ)をくちびるで甘く咬まれ、反射的に身体が硬直した。


「き‥緊張なんてしてな―‥」


「‥‥強がり、か‥?」


「!?」


  ジ‥っ ジギー!?
  もしかして もしかしなくとも
  なんか そういう その気――!?!


内心で汗だくになりながら、とりあえず的にでも彼を押し留める術を確保しておこうと、私を抱くジギーの腕に手を添える。
この後、彼の手がどう動くのかが予測つかなくて‥。

「‥‥‥」

そうこうしていると、きゅっ‥と抱き締める力が強められ、ジギーの頬が肩に預けられる感触がした。

「ジ‥ギー‥‥?」


「‥よく、付き合っているな」


  ‥えっ‥‥。


「‥何‥が‥?」

「俺と‥だ」

断片的に聞かれたこと―‥
それは、ジギーが自分との交際を揺り動かすような質問だった。

「‥‥どうして?」

「‥‥‥」

「ジギー‥?」

私の肩に顔を埋めたまま、何も言わないジギー。
‥‥きっと、懸命に言葉を探してる。
言いたいことが‥上手く、言葉にできなくて。


「‥馬鹿」


‥不器用な人。


「‥‥すまない」


‥‥優しい、人‥。


「私‥ジギーがいてくれたらそれでいい。
 もし、私を想ってくれていなくても‥
 ジギーが幸せなら、私はそれでいい」


正直な、気持ちだった。


「人の気持ちなんて、その人の勝手よ。
 私が何をどう思おうと、そんなの誰にも関係ないわ。
 私はジギーが大事なの。
 私がジギーを大切に想うのだって、私の勝手よ。
 それなのに‥‥酷いわ。」


彼は優し過ぎる。
クールな振りして、本当はとても熱い。
一途で、甘くて‥
滅多に立ち入らせないくせして、一度 心を許せば無防備で。


「‥ジギーの馬鹿。傷付いた」


大嘘。
傷なんか付くはずもない。
だって、ジギーの気持ち‥十二分過ぎるほど解ってる。
私をとても大切にしてくれている、その想いが。


「謝ったって‥赦してあげない」


‥ちょっとした、いぢわる のつもりだった。


「リリィ‥。」


‥でも。
身動ぎしながら後ろを向くと、あなたは本当に困った顔をしていて―‥。
私の心を拐っていった、あの 闇を駆ける狼のような瞳が‥
道に迷った仔犬のように、不安げに揺れ動く。


「 ‥‥キス、して。
  そしたら‥赦してあげる 」


柔らかく微笑んで、目を閉じた―‥。


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