自宅に辿り着くと、私はお茶を用意する為に台所でお湯を沸かす。
手元にはさっきもリーシャの家でいただいていた、私の大好きなロサ・ティー。

「ジギー、ロサの華茶って飲める?」

「‥ロサの華茶?」

「うん、ロサの花びらがブレンドされた紅茶。飲んだことある?」

「いや、ない。」

「そっか。お砂糖入れても美味しいのよ。
 モノによってはロサ香が強いから、ちょっと好き嫌い別れるかもしれないけど。
 ‥試してみる?」

 ――‥カチャン‥‥

お気に入りのティーカップにお茶を淹れて差し出す。
辺りに芳しいロサの香りが広がった。

「いい香りだな」

途端に柔らかくなるジギーの眼差し。
こういう時は、嬉しくなってしまう。

「でしょ?
 はちみつ、そこにあるからお好みでどうぞ♪」

「ああ‥」

ひとくち 味を見て、お茶に華蜜を足すジギー。
ちゃんと味見してから っていう辺りでも、ジギーの優しさが垣間見えるのよね。うふふっ。

「‥‥美味いな」

「‥! ほんと?
 よかった‥♪」

ジギーの瞳の光が揺れる。
相当お気に召したみたい‥♪
リーシャ、ありがとう!

「これね、さっきリーシャから貰ったの♪」

「‥フィゼルから?」

「うん♪
 さっきまでリーシャのお家で一緒にお茶してて。
 そのお土産で、半分 分けてくれたの」

「意外だな‥フィゼルがこういうものを好むとは。
 ホットミルクやココアの方が好きそうだが」

親友の名前を出すと、ジギーったらカップの紅茶をまじまじと眺めだす。
リーシャの好みについてはご名答ストライクね。

「ふふっ。ジギーってば。
 これは、私が好きだからよ。
 一緒にお茶しようね って、前々からの約束だったから。
 あの娘、私の為にわざわざ用意してくれたのよ‥♪」

るんるんとした気分で、私もお茶を口にする。
‥ん、やっぱりロサの華茶はここのが一番ね♪

「この紅茶ね、ローセア・ローシア っていって、私の一番好きなロサ・ティーのブランドなの。
 ブレンドされてるロサの分量が、他のメーカーさんに比べて断然に多いのね。
 その分 ちょと割高だし、取り扱いも少なくてお店にあまり置いてなくって。
 香りも、紅茶 というよりはヘルバ・ティー並みだから好みも別れるんだけど。
 ジギーは好きみたいだからよかった♪」

そういえば、このお茶 アリアさんはあまり好きじゃないみたいだったけど、館長は好きだって言ってたな‥
そんなことを思いながら にこにことお気に入りのロサ・ティーの逸話を話す。

「‥お前みたいだな」

「‥え? 私?」

不意に言われた言葉に、意味が解らず きょとん としていると、ジギーがふっと笑った。

「‥いや。何でもない。
 それより‥さっきは何があった」

「さっき‥?」

「フィゼルと会った帰りだったのだろう?
 どうしてあんなに沈んでいた」

「あ‥‥」


  『‥ねぇ、どうしたら胸は大きくなると思う?‥』


思い返る、リーシャの巻き起こした爆風。
‥優雅ならぬ、乙女のティータイム。

「別に、何かあって沈んでたわけじゃ無いのよ。
 ‥それ、なんだけどね―‥」

そうして、私はジギーに話し始めた。
リーシャと私の‥
否、女雀たちのさえずり競争を。


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