先日―‥
私はロイド館長から呼び出しを受け、館長室に向かう途中だった。
またいつものような他愛の無い私用だろう。館長は公務上での私事が過ぎる―‥
そんな事を考えながら、郵便館の廊下を歩いていた。

「リリィ」

背後から呼ばれ、振り返ると‥

「あら、ゴーシュさん。おはようございます。
 ‥珍しいですね。朝っぱらからこんな場所にいらっしゃるなんて」

「あなたを探していたんです。リリィ。
 さっき、館長から呼び出しを受けていたと聞いて。」

「え、私を?
 どうかなさったんですか?」

「ええ‥。少し、聞きたいことがありまして。」

「聞きたいこと‥ですか?」

「リーシャの事です」

「リーシャ‥‥?」

ゴーシュさんの口から飛び出た名前は、私の親友であり、彼の恋人でもあるリーシャの名前。

「リーシャがどうかしたんですか?」

「リーシャがどうかした、というか‥‥」

一瞬だけ口ごもり、首を横に振る。

「‥いえ。回りくどい言い方をしても仕方ありませんね。
 単刀直入に聞きます。」

そして投げ掛けられた質問は、私にはとても衝撃的なものだった。


「最近、リリィはリーシャに避けられたりしていませんか?」


「‥‥え?」

 リーシャが、私を“避ける”‥?

「いつもだったら、考えられないことなんですが‥」

言葉が出てこないままでいる私を前に、ゴーシュさんは己の近況を語っていく。

「ここ数日くらいから、ハチノスで顔を合わすと そそくさと逃げられてしまうんです。‥挨拶すら交わす暇もないくらいに」

 ‥‥リーシャがゴーシュさんから逃げる?

 そんな、有り得な―‥

「何かがおかしいと思いまして‥
 それで、リーシャの家を訪ねてもいつも留守なんです。
 ‥でも、家の中からはレイラの足音がするんですよ」

「えっ‥‥‥」

「居留守、です」

 リーシャがゴーシュさんに居留守!?

つい、目を見張った。

「なんで、そんなこと‥‥」

「解りません。」

驚きに舌を巻いていると、ゴーシュさんはゆるゆると首を振った。

「僕も身に覚えがないものですから、何が原因なのかが全く解らなくて。
 それで、リリィに対してはどうなのかと‥‥リーシャが親しいのはリリィくらいですからね。もしかしたら彼女の近況に何があったのかが解るかもしれないと思って」

それで私に声をかけた―‥
それも、手紙の配達よりも優先して。

「‥‥‥‥。」


  『な、何にもないよ!
   じゃあ、配達あるから行ってくる!』


脳裏に、リーシャと最後に会ったときの光景がよみがえる。
‥確かに、あの娘の態度は変だった。
慌てていたというか、妙によそよそしげで―‥

「‥‥‥逃げられた」

「‥え?」

にわかには信じられないけれど、確信するしかなかった。


「私も、リーシャに逃げられた」


ゴーシュさんさえも避けているのならば‥
私に対するあの態度は、逃げた としか言いようがない。

「‥やはり、リリィもですか。僕だけではなかったんですね。」

彼に言われるまで気付かなかった私も私だ。

 だけど、どうし―‥
「でも、どうして‥」

私の心の呟き声に、眉を潜めて考え込むゴーシュさんの言葉が重なった―‥。

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