泣きながら一人で廊下を歩いていたら、曲がり角の所で誰かとぶつかってしまった。

「すみません!」

慌ててぶつかった相手に謝って顔を上げれば、そこにいたのはリリィの恋人であるジギー・ペッパー。

「…泣いてるのか?」

ぶっきらぼうな声だったけど、何故かこころに染み入っていく。

「うっ…うわあああん!」

私は思わず彼に抱きついて、人目もはばからずに泣き出してしまった。

「落ち着いたか?」

「…うん」

ずっと泣いている私の背中をさすっていてくれたジギーの問いかけ。ようやく落ち着いてきた私は、小さく頷く。

「で、どうした?」

「実は、この前見ちゃったんだ。ゴーシュとリリィが休みの日に二人でお出かけしてる所を…。それで、私が二人と顔合わせづらくて避けてたら、さっきリリィに怒られちゃった。あなた、一体どういうつもりなの?どうせ、私とゴーシュさんが付き合ってると思ってるんでしょって」

「………」

私がジギーに事情を説明したら、何故か彼は黙ってしまった。

「ジギー…?」

「行くぞ」

ジギーは、何で黙ってしまったか分からずに首を傾げた私の腕を掴んで、すたすたと歩き始める。

「え?行くって、どこへ?」

「決まっている。リリィの所だ」

そう言ったジギーに連れられて行った先には、ゴーシュとリリィの姿。

「ジギー!帰ってきて………」

嬉しそうに輝いたリリィの顔が、私の姿を見つけた途端に消え去った。

「………リーシャ」

「話があるんだろう」

ジギーによって、私はリリィの前に引っ張られる。突き刺さる三人の視線。

「………」

私は何も言えず、この場から逃げ出したくなってきた。

「私たちの前から、今のついさっき逃げ出しておいて…。今度はお連れさままで従えて、何の用よ?」

怒っているリリィの急かす声に、びくりとしつつも口を開く。

「…何で?ねえ、何でリリィがゴーシュと一緒に出かけてるの?よりにもよって、私には内緒で!」

最初の一言さえ出てくれば、あとの言葉はすんなりと出てきた。私はあの日からずっと抱えてきた気持ちをリリィにぶつける。でも、私の言葉を聞いた彼女は、きっと私を睨みつけた。

「ジギーまで巻き込んで…あんたって娘は…っ!」

パシン!!

つかつかとリリィが私の前まで歩いてきたと思ったら、そのまま私の左頬を思いっきり平手打ちした。その衝撃で私はよろめいたけど、後ろにいるジギーが支えてくれる。

「………」

呆然とこちらを見ているゴーシュと、私を睨みつけたままのリリィ。痛みより恐怖を感じて、思わずジギーにしがみつく。

「リーシャ」

それを見たリリィが、氷のように冷たい目で私を見据えた。ぎゅっとジギーにしがみつく腕に力が入る。

「あんた、自分の事を何様だと思ってるの?ふざけるのも大概にしなさいよ。自分がした事をよく考える事ね」

リリィは吐き捨てるようにそれだけ言って、くるりと向きを変えて駆け出した。

「ジギー・ペッパー、リーシャの事を頼みます」

呆然としていたゴーシュがはっとして、慌ててリリィを追いかけて行く。ようやく痛みを自覚しだした頬を押さえながら、私はただその光景を見ているだけだった。



*****☆*****☆*****
偶然 出会したとはいえ、フィゼルが俺に心中を零すとはな‥
苦手視されているものだとばかり思っていたのだが。
リリィと喧嘩、か。
フィゼルに対して、あんなにもリリィが怒るとは‥珍しいな。

  from ジギー・ペッパー

Thu.20.Jan.2011
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