幸せな一夜の余韻を胸に、私はゴーシュと一緒にハチノスへ出勤した。そして、曲がり角の向こう側にいるリリィの様子をこっそりと伺う。
「ほら、今がチャンスです。リリィへ謝りに行くんでしょう?」
「うん…」
ゴーシュに促されるものの、踏ん切りがつかない私はなかなか動けないでいた。あの激しく怒った彼女の氷のように冷たい眼差しを思い出し、躊躇してしまうからだ。
「今行かなければ、この先ずっと後悔しますよ。リリィと仲直りしたくないんですか?」
「…仲直りしたい」
「その気持ちがあれば、大丈夫ですよ」
とんと背中を押され、ついに一歩を踏み出した。視線の先には、窓の外を眺めるリリィの姿。
「…リリィ」
まっすぐに彼女の所まで歩いていき、小さく深呼吸してから声をかけた。
「何?」
振り向かないまま返事をするリリィ。私はその背中に頭を下げる。
「この前は、ごめんなさい。リリィがゴーシュと出かけた訳も知らずに、あんな事言って…。許してもらえるか分からないけど、本当にごめんなさい!」
「用件は、それだけ?」
誠意を込めて謝るけど、リリィの視線はまだ窓の外を向いていた。でも、そんな事に負けない。伝えたいこころがあるから。
「ううん、まだあるよ。誕生日プレゼント、ありがとう。昨日ゴーシュから渡されたけど、とても可愛くて嬉しかったよ。リリィ、どうもありがとう」
「大事にしてよね、それ。そんじょそこらじゃ売ってないんだから」
そう言って、リリィがくるりとこちらを振り向いた。その顔はいつもの笑顔で、つられて私も笑顔になる。
「うん!一生の宝物にする!それでね、今回のお詫びとして、何かお願い事を聞こうと考えてるんだけど、何がいい?」
私が訊ねると、リリィは少し考える素振りを見せてから、楽しそうに笑った。
「…そうね。私とジギー、リーシャとゴーシュさんで、ダブルデートがいいわ」
「え?そんなんでいいの?」
予想外なリリィのお願い事に、私はぽかーんとしてしまった。ダブルデートなんて、これまた予想外すぎるよ。てっきり、何か買ってほしいって言われると思ってたんだけどな。
「ふふ、そんなんがいいの。私のお願い、叶えてくれるんでしょ?」
「もちろん!」
ウィンクするリリィにしっかり肯定から、私は彼女にぎゅーっと抱きつく。
「リリィ、大好きだよ!」
「こらこら、言う相手が違うでしょうが」
そんな私を何とか引き剥がそうとするリリィの顔は、しっかりと赤くて。
「いいのいいの。リリィだって、私の大切な人なんだから」
「仲直りできてよかったですね」
彼女を離すまいと腕に力を込めようとしたところで、ゴーシュの声が聞こえてきた。そちらに視線を向ければ、いつの間にか私達の側まで来ていた彼と目が合う。
「うん、ゴーシュのおかげだよ!どうもありがとう!」
「どういたしまして」
私は柔らかに笑う恋人へ笑顔を返した。そして、固く決意する。
もしも…もしもまた、今回のような事があったら、その時は逃げないで確かめよう。きっと、何か理由があるはずだから。これからも、大切な人達と笑い合うために。
*****☆*****☆*****
まったく‥最初から最後までヒト騒がせなんだから。
でも、いいわ。ちゃんと自分から謝ってきてくれたんだし、赦してあげる♪
ダブルデート、実はちょっとした憧れだったのよね。ジギーがゴーシュさんと並んで歩く姿なんて想像つかないし。ふふっ。
楽しみにしてるから、ね♪
from リリィ・フォルトゥーナ
Wed.07.Jan.2015