手早く作った夕ご飯を楽しく食べた後、ゴーシュと一緒にお風呂に入った私。今は、プレゼントされた下着とパジャマを着て、後から出てくるゴーシュを待ってるんだけど…。
「暇だよ…」
その待ち時間が退屈だった。ベッドに寝転んで、ごろごろと転がってみるけど、やっぱり暇なわけで…。考えないようにしていた事が、じわじわと忍び寄ってくる。
「ゴーシュ、似合うって言ってくれるかな…?」
レースとリボンとフリルがあしらわれた真っ白なパジャマ。いくらゴーシュが選んでくれたとは言え、こんな清楚で可愛らしいのが私に似合うのか、正直言ってかなり不安なのだ。
「ああもう、緊張してドキドキしてきた…」
退屈から一転して、今度は心配になった私。寝室の出入り口であるドアに視線を向け、早くゴーシュが来る事を願う。
「お待たせしました、リーシャ。そのパジャマ、とてもよく似合っていますよ」
「本当!?」
その時、ちょうどタイミングよくドアが開き、お風呂上がりのゴーシュが中に入ってきた。真っ先にパジャマが似合うと誉められ、先ほどまでの懸念が一気に吹き飛ぶ。
「ええ、僕の好みで選んだのですが、リーシャの可愛らしさをさらに引き立たせていますね」
「あ、ありがとう…」
ゴーシュは満足そうに笑うと、ベッドに腰を下ろした。私はというと、更なる誉め言葉に自然と顔が赤くなる。似合うと言ってもらえて、本当によかった…。
「では、次は下着ですね」
そう言うなり、すぐに私のパジャマを脱がしていくゴーシュ。いつも思うんだけど、ゴーシュって器用だよね。私の服とか下着を脱がせる時、一度も手間取った事ないし。
なんて思っている内に、私はいつの間にか下着だけの状態になっていたようで。素肌にひんやりとした冷たい空気が当たる。
「えっと、どうかな?紐パンツは初めてだけど、変じゃない?」
「大丈夫ですよ、リーシャ。とても可愛いです」
無言でじっと見つめるゴーシュに気恥ずかしさを感じて声をかければ、彼は柔らかく微笑みながら私の頭を撫でた。
「やはり、紐の方が似合いますね」
「ん?紐以外にもパンツがあったの?」
不意にゴーシュが呟いた一言に疑問を覚え、聞き返してみる。この言い方からすると、他にもあったって事だよね。
「ええ。記念仕様だったらしく、紐の他にTバックを選べたんですよ」
「それで、ゴーシュはこっちにしたんだね。どこで買ったの?」
質問した所で、ぶるりと体が震えた。すっかり湯冷めして寒くなった私はゴーシュを引き寄せて、一緒に布団の中へと入り込む。ぴたっとくっついてから、先ほどの質問の答えを促した。
「リリィにリーシャのお気に入りというお店に案内されて、そこで」
「え、あのお店に行ったの!?よく入れたね。気後れとかしなかった?」
頭によく行く下着屋さんが思い浮かんだ。あのお店はショーウインドウに女性の下着を二種類も飾ってあるから、男の人は店の中に入りづらそうだと思う。実際、店の中で男の人の姿を見かけた事もないしね。
「いえ、特には。あの程度で躊躇うようでしたら、リーシャへのプレゼントは買えませんから」
「ゴーシュ…。本当にありがとう」
自信に満ちたゴーシュの答えを聞いて、私は嬉しくなった。大好きな人にこんなにも愛されている。きっと、今の私は世界で一番の幸せ者に違いない。
「どういたしまして。リーシャの喜ぶ顔が見たくて、いろいろした甲斐がありました。リリィには感謝しないといけませんね」
「そう言えば、リリィのくれたイヤリングはどこで買ってたの?」
ゴーシュがリリィの名前を出した事で、彼女からもらった白い貝殻のイヤリングについて、聞きたい事を思い出した。あんなに高そうなの、どこで買ったんだろう?
「すみません。リリィのプレゼントについては、僕も詳しくは知らないので…」
「そっか…」
知らないというゴーシュの返答は、まさかの予想外だった。一緒に買ったとばかり思ってたけど、実際は違ったんだ。
「…ところで、リーシャはリリィが何処か遠くへ行くというような話を聞いた事はありませんか?本人から直接か、そういう噂とかでもいいのですが」
「え、遠く?そんな話、聞いた事もないよ?」
「そうですか…うーん、僕の思い違いでしょうかね」
突然の問いかけに驚く私をよそに、ゴーシュは一人考え込む。
「何かあったの?」
「いえ、何かあったというわけではないのですが、リリィがそれらしき事を言っていたように感じたので…」
彼の言葉を聞いて、ふと、しばらく前にリリィの家へと遊びに行った時の事が思い出された。
『こんなに捨てられない物が増えると、引っ越しする時が大変ね』
『実際に引っ越すつもりなんかないわよ。前にここへ引っ越してきた時の話に決まってるじゃない』
確かその日はお茶を飲みながら、館長からもらった指輪の話から始まって、ジギーやゴーシュといった身近な人物について、どう思っているのかをお互いたくさん話したんだ。その中で、彼女がそんな事を言ってて…。
「いえ、やはり僕の思い違いでしょう。すみません、リーシャ。無駄に不安にさせてしまって」
そこまで考えたところで、ゴーシュが申し訳なさそうに謝ってくる。そんな彼を安心させたくて、私はううんと頭を振った。
「私なら大丈夫だよ。それに、リリィ言ってたもん。引っ越すつもりなんかないって」
「そうですか」
ほっとしたように笑うゴーシュの首に手を回して、ちゅっと触れるだけのキスをする。
「ゴーシュ、大好きだよ」
その夜、私は大好きな恋人の愛情と優しさに包まれ、甘くとろけるような時間を過ごした。
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