暖かいお祝いの言葉に胸がきゅっとつまり、勝手に涙が出てくる。嬉しいとか、申し訳ないとか、後悔とか、いろんな気持ちが溢れてきて、ついには泣き出してしまった。

「リーシャ…」

そんな私を抱き寄せて、優しく頭を撫でてくれるゴーシュ。泣くのを止めようと思えば思うほど、涙は止まらなくて…。

どれぐらい泣いただろうか。頬を濡らしていた涙も乾き、目が腫れぼったく感じるようになってきた頃。

「ゴーシュは優しすぎるよ…」

私はぽつりと呟いた。今更だけど、ゴーシュは優しいを通り越して優しすぎると思う…。

「そうですか?」

ゴーシュが首を傾げるのを横目に、膝を抱えて顔を埋める。

「そうだよ。ゴーシュは私なんかに優しすぎるよ…。いつも勝手に思い込んで、悩んで落ち込んで、ゴーシュを傷つけてるのに…」

今回の一件にしてみてもそうだ。いくら知らなかったとは言え、私が取った行動は最低だ。確認する事すらせずに、恋人を信じられずに避けて…。

「傷つけられたなんて思ってませんよ。リーシャの悩みはいつも、僕を想うがためでしょう?可愛いじゃないですか。僕のために、こんなにも一生懸命になってくれて」

ぎゅっと目を閉じていた私の耳に届いた、ゴーシュの優しい言葉。恐る恐る顔を上げると、ふわっと笑う彼と目が合って、胸がじんわりと暖かくなる。

「さすがに、今回避けられたのはショックでしたけどね」

だけど、続けられた言葉は苦笑混じりだった。私は大慌てで頭を下げる。

「ごめんなさい!」

「僕はいいですけど、リリィにはきちんと謝って下さいね」

「あ…」

ゴーシュに言われて、はっとした。今なら分かる。彼女が何を言いたかったのか。私、本当に馬鹿だ。何も知らず、知ろうともせずに、あんな事言っちゃって。こんな私なんか、とっくの昔に愛想尽かしちゃっただろうな…。

「これ、リリィからのプレゼントです。僕から渡してほしいと頼まれました」

「リリィからの…」

光沢のあるリボンと上品な淡い色の紙に包まれた小箱を受け取り、まじまじと見つめる。開けるのを躊躇うぐらい可愛いラッピングに、少しだけこのまま飾っておきたい気分になってしまった。けど、気を取り直して、ラッピングを開けていく。

「素敵…」

中に入っていたのは、技巧が凝らされたお洒落な白い貝殻のイヤリングだった。ぱっと見ただけでも、高価なものだと分かる代物で…。

「これをリリィが…」

手に取って見惚れていたら、不意に彼女のふんわりとした柔らかい微笑みが浮かぶ。

「明日、リリィに謝ってくる。許してもらえるか分からないけど、きちんと謝らなきゃ」

「今のリーシャなら、きっと大丈夫ですよ」

リリィに謝る事を決意した私を、ゴーシュが励ましてくれた。その優しさに、私はいつも救われている。いつか、私も彼を励ます事ができたらいいのに。

「それとですね、実はもう一つプレゼントがありまして」

「もう一つ、プレゼント?」

イヤリングを大切に元の小箱へ仕舞っていた私が顔を上げれば、ちょうどゴーシュが鞄から新たな袋を取り出した所だった。

「ええ、これをどうぞ」

「ありがとう」

プレゼントを渡され、ゴーシュにこちらも開けてみて下さいと促される。私は言われるままに、ラッピングされた袋を開けていくと…。

「…パジャマ?」

中から白色の可愛らしいパジャマが出てきた。襟元とか袖口にあしらわれたレースやフリルは控えめで、可憐さを際だたせている。じっくりと見ていたら、楽しそうなゴーシュの声が聞こえてきた。

「リリィからのアドバイスで、リーシャが一人で眠る夜でも僕をずっと感じていられるように、だそうです」

「………」

ずるい、と思った。こんなの反則だよ…。だんだんと熱を持っていく顔を隠すために、私はゴーシュの胸に顔を擦り寄せる。

「リーシャ?」

「ゴーシュったらずるいよ…。こんな事されたら、ますます離れられなくなっちゃうじゃない…」

嬉しくて嬉しくて。でも、出てきた言葉は素直とはほど遠いものだった。

「離すつもりありませんから」

優しいけど、しっかりとした意志が感じられる声が聞こえる。そして、私はぎゅっと抱きしめられた。ゴーシュの腕の中、顔を上げて彼を見つめる。

「こんな私でいいの?やきもち妬きだし、思い込み激しいし、すぐネガティブになっちゃうし…」

「僕はリーシャのそういう所も全部含めて、愛してるんですよ」

「ゴーシュ…。私も愛してる…」

初めて言ってくれたゴーシュの愛してるという言葉。私からも愛しい気持ちを伝えれば、唇が深く重なった。

しばらくしてお互いの唇が離れ、私は改めてゴーシュの温もりを堪能する事にした。

「これで、今夜ゴーシュが泊まってくれたらなー…」

「僕はそのつもりで来ましたよ。シナーズのパンも買ってきましたから」

冗談めかして泊まって欲しいという願望を口にすれば、あっさりとそれは叶えられる。

「やったー!じゃあ早速夕ご飯を用意してくるから、ゴーシュはちょっと待っててね!」

さらにはシナーズのパン付きと聞いた私はゴーシュから離れ、急いで夕ご飯の支度に取りかかった。

作るメニューは、手早く簡単なバジルチキン。あとは、玉ねぎとベーコンのスープに野菜サラダかな。



*****☆*****☆*****

リリィくんがゴーシュ・スエードに渡していたあの箱は、僕と出張したときに どうしても と言い張って譲らなかった工房の品−‥
‥のように見えたけど、僕の気のせいかな?
それにしても、あの時は役得だったね。

  from ラルゴ・ロイド

Sun.05.Oct.2014
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