あれからゴーシュやリリィと話す事もなく、ただ淡々と仕事をこなすだけの日々が続いたある日の事。

「毎日毎日、疲れるな…」

本日の配達が終わり帰宅の途につく私は、もう少しで我が家に到着するといった所で大きくため息を吐いた。

「ごめんね、レイラ。早く帰ろうか」

隣を歩くレイラに声をかけ、遅くなりがちな足を早めに動かす。家まではもうあとわずかだ。

「あ…」

だけど、その足も目的地に辿り着く直前で止まった。何故なら、玄関のドアの前にいるはずのない恋人の姿を見つけてしまったから。

「ゴーシュ…」

私は思わず名前を呼んだ後で、しまったと思った。また無視されてしまう…。その恐怖に立ち竦んでいると、ゴーシュは私を見てにっこりと笑顔を浮かべた。

「こんばんは、リーシャ」

「…え?」

声をかけてきたゴーシュに驚く。都合のいい夢を見てるんじゃないかと目を擦ってみても、現実は何も変わらなくて…。

「これからお邪魔してもいいですか?」

「いいけど…」

ゴーシュの今までの事がなかったかのような振る舞いに、私は戸惑いながらも頷いた。

「お邪魔します」

「………」

先に家の中へと入るゴーシュに続いて、レイラと自分も中へ入り、後ろ手で静かにドアを閉める。

「こうしてリーシャの家に入るのも、久しぶりな気がしますね」

「何で…?」

ゴーシュが懐かしそうに家の中を見渡す。そんな彼に向かって、疑問に満ちた私の声が零れ落ちた。

「何でまた私に話しかけてくれるの?私の事、嫌いになったんじゃなかったの?」

こちらを振り向いたゴーシュへ問いかける。分からなかったからだ。私の事を嫌いになったはずなのに、再び私に話しかけてくれる理由が。

「違いますよ。リーシャを嫌いになんかなっていません」

だけど、ゴーシュはきっぱり嫌いになっていないと否定した。そしたら、今度は別の疑問が湧いてくる。

「じゃあ、どうして私を避けたの…?」

「先に避けたのはリーシャでしょう?僕はただ同じ事をしただけですよ。お返しです」

「………」

言われた言葉はもっともで、私は何も言えなくなった。ゴーシュの言う通り、先に避けたのは私だったから…。

「寂しかったんですよ。急にリーシャが僕を避けるから…」

「あれは、私に内緒でゴーシュとリリィが…」

困ったように笑うゴーシュを見て、思わず言い訳の言葉が出てくる。だけど、それも遮るように言われた彼の言葉が聞こえるまでだった。

「確かに、僕がリリィと出かけたのは事実ですけど、リーシャが想像するような意味ではありませんよ」

「え?どういう事?」

言われた言葉の意味が分からず、ゴーシュをまじまじと見つめる。それでも、二人で出かけたのは事実なのに…と思いながら。

「あの日、彼女と出かけた理由は、これを選ぶためです」

開けてみて下さいと、ゴーシュから可愛らしくラッピングされた袋が渡される。

「これは…下着?」

がさごそと開けて、中身を取り出してみると、一組の水色チェックの下着が出てきた。あ、紐パンツだ。可愛い…。

「リーシャへの誕生日プレゼントです」

手に持っていた下着からゴーシュへと視線を移せば、彼は穏やかに優しく笑っていた。それは、何度見ても絶対に見飽きる事ない、私の大好きな表情。

「お誕生日おめでとうございます、リーシャ」

そう言って、ゴーシュは微笑んだ。



*****☆*****☆*****

どうして‥?
どうして、戻ってきてくれるの‥?
どうして、誕生日プレゼントなんて‥‥

ゴーシュは私のこと、嫌いになったんじゃなかったの‥‥?

  from リーシャ・フィゼル

Sat.27.Sep.2014
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