「 少し休みませんか? リリィ 」


雑貨屋を出てからの後。
笑い合いながらお喋りをしつつ、しばらくの間 歩いていると ふとゴーシュさんから休憩の提案が入る。

「あ、はい。
 今日はだいぶ歩きましたものね」

頷いて答えると、隣で歩幅を合わせてくれていた彼の歩みが止まった。

「この先に、お勧めのカフェがあるんです。案内しますよ」

そう言ってゴーシュさんは私の前をすたすたと歩き始める。


 私の役目はこれまで、‥‥かな?


立場逆転に少しだけ心を躍らせながら、親友の恋人の後を付いていく。

彼の向かった先は−‥


「‥ここです。」


脇道に反れた場所にある、隠れ家のような小さなお店。
出入り口の扉には、ロサのエングレーブが施された看板にリーリウムを模した可愛いベルが提げられている。
お店の名前だろうか‥看板には優雅な綴り文字で‘ROSA et LILIUM’と彫り込まれていた。

「今日のお礼に‥
 ぜひ、お連れしたくて」

ゴーシュさんの優しい声。
柔らかく微笑みながらお店の扉を開け、執事のように胸に手をあて礼をした。

「 うわぁ‥‥‥!!! 」

彼に招かれお店へと一歩踏み入れると、眼前には夢のような世界が広がった。
店内全体がロサとリーリウムで飾られ、客席には象牙のアンティークなテーブルと椅子が設けられている。
たくさんのフリルが美しい真っ白なカーテンに、礼拝堂のような枠縁のクリスタルガラスがきらきらと煌めいていた。
その背景には可愛らしいオルゴールが流れ−‥

「‥素敵‥‥」

幻想的でいて優美な、とてもお洒落なカフェだった。

「リーシャから、リリィはこういう雰囲気が好きだと聞きまして」

圧倒されて立ち尽くしている私の背中に、ゴーシュさんの手が添えられる。

「気に入って頂けましたか‥?」

隣を見上げれば、穏やかな眼差しと夢まほろの視線とが絡み合った。

「はい‥‥
 とても‥素敵です‥‥」

‥もう、夢見心地だった。

「それは良かった。
 ‥‥さあ、こちらへ」

手を、差し出される。

「‥はい」

躊躇いは無かった。
今日だけはごめんね と、内心で親友に断りを入れつつ 呈されたゴーシュさんの手の上に自分の手を重ねる。

「‥足許に気をつけてくださいね。リリィ姫」

「まあ‥ゴーシュさんったら。ふふっ」

優しく、それでも何処か悪戯な響きを含んだ声調子で言われて笑声が零れる。
そうして案内された先には‥‥。


 リーリウムの、花束‥‥?


アイヴォリーの円卓。
その上には、両手に抱えきれないほどの大きな純白の花束が置かれていた。
私をテーブルにまで誘い、ゴーシュさんが それ を手に取る。


「‥あなたのおかげで、思い描いていた以上の素敵な贈り物が用意できました。
 今日は‥本当にありがとうございます。リリィ」


ふわっ‥っと薫り立つ、華の香り。


「僕にはこんなお礼しかできませんけど−‥

  ‥受け取ってください 」


   花束を、渡された−‥。


「ゴーシュ‥さ‥ん‥‥」

にこにこと優しく微笑む、銀(しろがね)の紳士。

「これからもリーシャのことを、よろしくお願いしますね。
 彼女には、あなたが必要です」

リーシャの、為‥
その為に、私にまでこんな−‥‥

「‥‥はい‥。
 こちらこそ‥‥
 リーシャを、よろしくお願いします」

彼女を想う、彼の心。
その有り様を目の当たりにして、だんだんと目頭が熱くなっていくのを感じた。

「‥‥っ‥」

今の私は、どんな顔をしているのだろう‥
きっと奇妙に歪んだ微笑み方をしているに違いない。
恥ずかしさが身を過ぎり、少しだけうつむく。

「リリィ‥?
 どうかしましたか‥?」

親友の恋人の、声。


  ‥私は、駄目なの


「リリィ‥‥?」

聞こえていたのかもしれない。
そうではないのかもしれない。

「‥何でもない」

否定に首を振り、微笑む。
‥今度は、うまく笑えているだろうか。

「‥‥あの娘を」

「え‥?」

「あの娘のこと、よろしくお願いします。ゴーシュさん」

そして、言い切った。

「 リーシャには‥
  ゴーシュさんしか、いないから 」

僅かに見開かれた、瞳。
伸ばされかけた手に結界地を侵される前に、言葉をつなげる。

「‥こんな素敵なお礼、初めてです。
 とても感激しました‥!」

瞳を潤ませながら、満面の微笑みで返した。

「本当にありがとうございます‥!」

「‥‥。それほどまでに喜んでいただけるとは。案内した甲斐がありました」

銀の紳士もまた、嬉しそうに優しく笑って応えてくれた−‥。

「‥さ、お茶にしましょう。
 ここは見た目通り、ロサの花を使用したメニューが逸品なんですよ。
 ロサティーと、ロサのデザートが特に香り高くて上品なんです」

そうして、私はゴーシュさんから素敵なお礼を−‥
否、素敵なプレゼント を、受け取った−‥‥。


*****☆*****☆*****

帰りたくないリリィがゴーシュを夜半のデートに誘う 現在。
今日のお礼にとゴーシュがリリィをお茶に誘う 過去。

今回のお話も、ちょっとした対比的な構成ですね。
‥とはいえ、前編通して共通している リーシャ溺愛 は変わりませんが(笑)
そしてまた、でっち上げ と ネタバレ しています(爆)
各々詳細についてはいつもの如く、そのうちに用語集に載せときます。

そうなんですよね。
我がヒロインのリリィと相方ヒロインのリーシャが初めて出会ったのは、リリィのBEE試験の時。
リリィはBEEとしてはリーシャよりもほんのちょっとだけ後輩なんです☆

Tue.17.Jun.2013
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