目の前に置いた二つのティー・カップ。
そのうちの一つ、自分のカップにロサ・ティーを注ぐ。
話が弾んでいる間に随分と濃くなってしまったようだった。
次にもう一つのポットを手に、お湯を足していく。
程好い色合いになったところで、ひとくちの味見。

「‥‥ん♪ これならまだ飲めそうね」

渋みはまだそれほどでもなかったので、ゴーシュさんのカップにも先ほどと同じ要領でお茶を淹れた。
お喋りしながらののんびりとしたティー・タイムはアフタヌーン・ティーの醍醐味ではあるけれど、お持て成しの品々を少し邪険にしすぎたかしらね。

ゴーシュさんのカップを彼の席に戻し、頬杖とともに一息つく。
‥ここ数日間、本当に色々な事があったわね。
館長、ジギーに博士、ゴーシュさん‥
‥‥と、リーシャ。
私に関わってる主要メンバーが全員勢揃いじゃあないかしら。
それに‥
まさか また、ゴーシュさんと二人っきりでお茶をすることになるとは思わなかった。


「‥‥‥リーシャの馬鹿」


私がゴーシュさんに心変わりなんてするわけ、ないじゃないのよ。


「‥私が愛してるのはジギーだけなのに」


それを、今まで何度 あんたに言ってきたと思ってるのよ。
どれだけ あんたに見せてきたと思ってるのよ。


「‥‥ジギーだけ、なのに‥‥」


それなのに、あんな風に疑うだなんて―‥


「‥‥‥」


あんただから、見せてきた。
あんただから、立ち入らせた。
あの人への想いも、あの人からの想いも、あの人と重ねた、たくさんの刻(とき)も‥‥


 あんただから 許した


あの人に関係する、何もかもを。


それなのに――‥


 ‥‥信じてもらえて、いなかった


「 ‥‥‥馬鹿。
  あんたなんか大嫌いよ 」


‥‥‥嘘つき。
本当は大好きなくせに。


「‥‥大、嫌いよ‥」


‥‥馬鹿みたい。
幾ら口に出したって、嫌いになんてなれないくせに――‥


「‥‥‥ふふっ」


自分自身を嘲笑いながら、界隈 隔てる柵の向こう側へと視線を泳がせた時だった。


「 リリィ?
  どうかしたんですか? 」


「‥!」


声に弾かれて振り向くと、お店への謝罪をしに行っていたゴーシュさんが戻ってきていた。

「あ‥。おかえりなさい。
 店員さんたち、大丈夫でした?」

「ええ、特に咎められることもありませんでした。
 ‥お待たせしてしまいましたね」

「いいえ、そんなこと。
 こちらこそ すみません。
 一人で謝りに行かせてしまって」

「構いませんよ。
 元はといえば僕の配慮不足のせいですから。
 ‥‥それより」

「‥?」

不意に、訝しげな顔をしてこちらを見やる。


「 僕が席を外している間に何かあったんですか? 」


「え‥‥」

「いえ‥
 僕が戻ってきたとき、悲しげな顔をしていましたから」

「‥‥‥。」

この人は いつもこうだ。
大きなことでも些細なことでも、何かあると感じるとすぐに質疑や気遣いの言葉を投げてくる。
知り合った頃から、変わらない。

「別に何もありませんよ♪
 ‥お茶、召し上がってください。
 冷めちゃいますし」

にこやかに笑って答えながら、自分もカップを取った。

「そうですか‥?
 何もなかったのなら それで良いんですが。
 あ、お茶淹れていただいてありがとうございます。いただきます」

「はい♪」

ゴーシュさんの いただきます に微笑み、再びお茶を飲んだ。
優しいロサの香りが味覚を通して私の胸の中に広がっていく。
‥余計なことを考えるのは止そう。
ゴーシュさんと、穏やかで優しいひとときを共有している―‥
それだけで十分じゃないの。
今 大切にしなきゃいけないのは、この瞬間この一時 なのよ。


「‥‥そうだ」


思い出したようなゴーシュさんの声。

「ん‥? どうかしたんですか?」

「あ、いえ。
 謝罪ついでに これ を買ったのを忘れていました」

‥‥と、テーブルに置かれる一つの紙袋。

「堅焼きワッフルだそうです。
 皿に乗っているものとは違うタイプのワッフルだと聞きましたので、リリィに渡そうと思って」

「え、私‥?
 そんな、この期に及んでお土産までだなんて、悪いですよ‥!
 シルベットちゃんへ、お土産に持ってかえってあげてください」

「それが、シルベットは最近になって ダイエットするんだからー! とか言い出しまして」

「えぇ!?」

「お菓子を持ち帰ると怒るんですよ。お兄ちゃんの馬鹿!! って」

「あ‥‥あんな小さい子がダイエットって‥‥。
 な、何があったんですか‥‥」

「リーシャの影響ですね。
 まあ、すぐ飽きるかとは思いますが」

「‥‥‥」

「ですから お土産にはできないんです。
 持ち帰ったら今度こそシルベットに嫌われてしまう。
 僕の為にも、これはリリィが食べてください」

呆気にとられていると、ダイエット天敵袋 がずずいっと付き出される。

「‥‥ぷっ」

つい、吹き出してしまった。

「やだなぁ、そんなに笑わないでください。
 兄として切実な問題なんですよ、妹に嫌われるというのは」

「ご、ごめんなさい‥‥
 ‥でも、ふふふっ」

照れながら頬を掻くゴーシュさんの姿を見て、更にも増して笑みが零れる。
善き兄、善き先輩であり、善き友人―‥
善き、親友の恋人。
私にとって、ゴーシュ・スエード という男性は そんな人。
誰の面影を重ねようとも どんなに同じ刻を過ごそうとも‥‥
それはずっと、変わらない。
そんな風に 強く強く感じた―‥。


*****☆*****☆*****

過去はデートの合間のランチタイム。
小悪魔リリィの本領発揮、というやつです(笑)
現在はリリィの独白です。
独りになって ふと思う、的なシーン。
リリィがゴーシュの事をどのように思っているのかがはっきりと解る回ですね。
若干のネタバレ入ってますが、ソコは突っ込まないでくださいねっっ(ぁ

さてさて、次回は相方の一番お気に入りのシーンが登場。
お楽しみにっ☆


以下補足です。
巻末ら辺でのゴーシュの発言、ワッフル について。
ワッフルというお菓子は、正式には ベルギー・ワッフル。
ベルギーの焼き菓子です。
小麦粉にバターや卵、牛乳などを混ぜて焼いたパンのようなお菓子で、皆さまご存知の通りのデコボコした格子模様が独特です。
ベルギー・ワッフルには、その発祥元などによりアメリカンだのブリュッセルだのストローだのと、幾つかの種類があります。
全部説明するのは流石にめんどくさいので、劇中に出てきた二種類のワッフルだけ解説しておきます(をぃ


☆ブリュッセル・ワッフル
ベルギーの首都・ブリュッセルが発祥。
表面がさくさく、中はふっくらと弾力のあるパンケーキタイプのワッフル
ゴーシュが“皿に乗っているもの”と形容したワッフルはこちらです。


☆リエージュ・ワッフル
ベルギーのリエージュ地方が発祥。
表面がかりっと堅く、全体的にさくさくとした堅い食感の円形をしたワッフル
ゴーシュが“堅焼きワッフル”と形容した方のワッフル。


リエージュ・ワッフルは持ち帰りするにも食べ歩きするにもお手軽な形容ですね☆

Tue.3.May.2012
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