お昼は、幾つもの様々なお店が軒並み連ねるフード・プラザでとることにした。
私の脚休めとともに、ゴーシュさんのお腹もしっかり満たせるように との考えからだった。
フード・プラザは軽いものからお食事系までが自由に選べ、求めるものが違う場合には最適の場所。
中央広場の反対側にあるプラザの一角で、ゴーシュさんはピラフを、私はミルクティーとフルーツパイをテーブルに並べ、暫くの間のんびりとした談笑を楽しんだ。

「‥―それにしても、気に入った下着がちゃんと見つかってよかったですね。
 あそこまで行って、何も収穫なかったらどうしようかと思っちゃいました」

温かなティー・カップを片手に ふふっと笑いかけると、向かい側からは私の手中にあるミルクティーに負けず劣らずとした柔らかで優しい微笑みが返ってくる。

「リリィには、本当に感謝しています。
 ‥問題は、僕の見立ての良し悪しですね。
 リーシャが喜んでくれると良いのですが」

「そんな、大丈夫ですよ。
 生地もデザインも、まんまリーシャ好みですし。
 その上 ゴーシュさんの好みも入った下着、でしょう?
 それでリーシャが喜ばないわけ、ないじゃないですか。私が保証します」

立てた人差し指をくちびるの前に、絶対に大丈夫 と太鼓判を押す。

「そうですか?
 それは心強いですね。
 リリィから聞く確信の言葉は、いつもながら不思議なくらい説得力があります」

「ふふっ。
 ‥あ、そうだ。
 ゴーシュさん、プレゼントに予定していたのは下着だけでしたよね。
 お予算的に、まだ余裕とかあります?」

「‥‥?
 ええ、予算ならまだ半分以上は残っていますけど‥」

「そうですか。じゃあ‥‥」

そこで、戯れにウインクしてみせる。
‥悪戯心に、火が点いたから。


「誕生日プレゼント。
 もう一つ、増やしませんか?」


「もう一つ‥?」

「下着と一緒に、夜着(よぎ)を‥ね♪」

「夜着‥‥?」

「ええ、夜着 です」

訳が解らない、といったゴーシュさんの顔。
脈絡無いし、当然かしらね?
ここからが リリィ・フォルトゥーナの本領発揮、なんだから♪

「理由は極々単純ですよ♪
 ほら、何だかんだ言っても 下着は下着 じゃあないですか。
 服の下に、部分的に身につけるもの」

「ええ‥‥確かに、下着とはそういうものですね。
 ですが、それが下着に加えて夜着を贈ることとどのような関係が?
 夜着とはいわゆる寝間着の事ですよね‥」

若干考え込んでからの疑問符。
私の意図が導き出せていない、訝しげな表情。
それでこその提案、ちょっとした 小悪魔マジック なのよね♪

「‥下着、即ちは 服の下に部分的に身につけるもの。
 それって、見解を変えると 素肌の一部に直接触れはするものの、“その身体の全てを包み込むものではない”とも言えますよね」

‥そう。
私なら、好きな人には“触れるよりも抱き締められたい”わけで。

「身体の一部を覆う下着を、リーシャと繋いだ手 だと仮定してみてください。
 そうすると 身体全体を包む衣服、それも床(とこ)に身を委ねるばかりとした時に纏(まと)う夜着(よぎ)とは‥‥‥
 ‥‥如何でしょうか?」

くすくすと挑発的に笑いながら、胸元の腕を交差させて自分自身を抱き締めるようにした。

「‥‥なるほど」

そんな私を前に、ゴーシュさんは彼是と考える素振りから納得したかのように頷き、私の方を見た。

「夜着をプレゼントに と言った理由‥
 お解りに、なりました?」

「ええ。感覚的に、ですが。
 リリィは、寝間着が リーシャを包み込むもの だと言いたいんですよね。
 繋いだ手と仮定した下着のように、部分的に触れるもの ではないと。
 そして 寝間着を夜に着ること に、意味がある‥。
 ‥と、言うことでしょうか」

「‥ご名答♪
 さすがゴーシュさん、ですね♪」

彼の解いた名推理に、再び悪戯に微笑んだ。

「幾ら頻回に顔を合わせてるっていっても、屋根を共にしてない分で限界があります。
 デートの終わりには、また明日ね って別れてしまうし、会えない日だって当然のようにある‥‥」

‥ふと、ジギーの顔が胸に浮かぶ。
ジギーと私は、会えない時間がリーシャたちの比にもならない。

「‥夜着は、そういう部分を補ってくれたりするんです。
 もともとは眠る間に着る衣服に過ぎないだけに、贈り贈られる双方の間柄を以て付けられる 付加価値 であって、夜着自体にそんな相対的効果なんてないんですけど‥

 着る側の、気持ちの問題。

 好きな人から贈られた寝間着を着て、眠る。
 寂しさに埋め尽くされそうになっても、身に纏うものがゴーシュさんに頂いたものだっていう事実が ゴーシュさんの優しさ、ゴーシュさんの温かさを思い出させる切っ掛けになる」

自らを抱き締めていた己の腕をほどき、胸に手をあてる。
その拍子に、以前 ゴーシュさんに庇われた時の、彼の腕の優しさが甦った。
ジギーのような逞しさや、館長のような強引さとは違う、穏やかなゴーシュさんの腕‥‥。

「――‥だから。
 ゴーシュさんから頂いた夜着を着ることで ゴーシュさんと一緒にいられない夜も、ゴーシュさんのことを感じていられるんです」

そうして、眠りにつく――‥
大好きで愛しくて掛け換えのない、大切な人を想いながら。

「‥なるほど‥‥。
 リリィの才気には脱帽しますね。
 贈り物ひとつに、そこまでの機知を利かせるとは。
 さすがです」

「ん‥ありがとうございます」

ゴーシュさんの物言いに、微笑みながら礼を返した。

「―‥それで、如何されます?
 夜着‥探しに、もう少しお店を回ってみます?」

「そうですね‥‥」

「リーシャ、喜ぶと思いますよ。
 あの娘、寂しがりで泣き虫で我が侭ですから‥ふふっ」

脳裏にリーシャのぶーたれた顔とヒステリックな泣き顔が交互に浮かび、つい笑い声が零れる。
それと平行して、ゴーシュさんが思い至ったかのように頷いた。

「‥うん。そうですね。
 リーシャが喜んでくれるのなら、そうしない手はありません。
 店の案内、お願いできますか?」

「もちろんです♪
 女性用の夜着は 寝間着それ用 というよりは部屋着や湯上がり着として置かれているお店が多いですから、探すのならお洋服屋さんよりも小間物屋さんの方がお勧めかな。
 ‥そんなに広いお店ではないんですけど、ここから郵便館に戻る途中にある裏通りに、リーシャの好きそうな雰囲気の雑貨が置いてある小間物屋さんがあるんです。
 そこに行ってみましょう♪」

―‥そうして、次に向かう先は 復路に建つ雑貨屋へと決まった。
その目的は、一つ増えたリーシャへの誕生日プレゼント。
私たちは、道中 お互いがそれぞれに知る リーシャの好み について語りながら歩いた。
寂しい夜も、彼女が幸せに眠れるような素敵な夜着を探す為に。


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