「リーシャ?」

ゴーシュは私の態度の急変に驚いたのか、戸惑いの表情を浮かべている。対して、私はにっこりと仮面の笑顔を作った。

「アカツキ行くんでしょ。大変だろうけどがんばってね。じゃあ、私帰るから。さよなら」

棒読みで伝えると、くるりと向きを変えて駆け出した。大切な存在のゴーシュだけど、彼にとって私がどうでもいい存在になったなら、私は自ら身を引くだけ。彼の口から別れは告げられたくない。

「リーシャ、待って下さい!」

後ろから聞こえてくるゴーシュの声。でも、振り向くつもりはない。目指すは玄関。そこから外へ出てしまえば、そう簡単には追いつかれないだろう。

しかし、その考えは甘かった。私の体力を考えてなかったからだ。さっきゴーシュを探して館内を走り回った時に消費された体力が、こんな短時間で回復するわけもない。結果、私は少し走った所で立ち止まる事になった。

「ここにいましたか」

壁にもたれて息を整えていると、あっさりとゴーシュに見つかってしまった。本当は外まで行くつもりだったけど、それももう無理そう。

「何?」

「先ほどリーシャの様子が違ったので、心配で…」

私が用件を問えば、ゴーシュは困ったように笑った。本当、よく見ている事で。優しい性格は相変わらずね。私は再びにっこりと笑顔を作って口を開いた。

「心配ありがとう。ほら、私なんか構ってるより、早くシルベットの所へ行ってあげたら?アカツキ行くなら、しばらく離れ離れなんだし、今の内に兄妹水入らずに過ごさなきゃ。あの子、ああ見えても寂しがり屋なんだよ。他人の私なんかに時間を使うより、妹のためにもっと時間を有効に使わなくちゃ」

「リーシャはそれでいいのですか?」

ずるい質問だと思った。そんな質問されたら、正直に答えるしかないじゃない。笑顔を貼り付けたまま、質問に答えていく。

「私?よくないけど、ゴーシュにとって私はもうどうでもいい存在なんでしょ?だったら、私なんかといるよりあの子といなきゃ」

「僕がいつ、リーシャをどうでもいい存在だと言いました?」

ゴーシュの低くて静かな声。やばい、これは怒っている時の声だ。前に一度、怒られた事がある。ふざけてビフレストから落ちた時の事。反省しなかった私はとても怒られた。あの時のゴーシュは怖かったと今でも思う。だけど、今は何で怒ってるの?事実を言ったまでなのに。

「だって、話してくれなかったでしょ?私には何も。勝手に決めて、私が訊くまで教えてもくれず。そんな状態で、私は本当に恋人なの?どうでもいい存在になったと思うしかないじゃない!だから、私から離れようとしたのに…」

いつの間にか、笑顔の仮面ははがれていた。剥き出しになったのは、私の本音。別れを告げられるぐらいなら、自分から別れたい。傷つきたくない私のエゴイズム。

「これ、開けてみて下さい」

不意に差し出されたのは、綺麗なラッピングに包まれている可愛い小箱。不思議に思いつつも受け取って、丁寧に開けていく。

「…指輪?」

小箱の中に入っていたのは、ダイヤモンドが中央に付いてるシンプルな銀色の指輪だった。手に取って、まじまじと見つめる。

「婚約指輪です。受け取っていただけますか?」

「…何で?怒ってるんじゃないの?」

私は指輪とゴーシュの顔を見比べた。だって、さっきまでは怒ってたはずなのに。どうして?

「確かに怒ってましたよ。でも、誤解させるような行動を取ったのは僕ですから。それに、口で言うよりも行動で示した方が、より信じていただけると思ったので」

嫌でしたか?と首を傾げるゴーシュに、そんな事ない!と慌てて否定すれば、よかったと微笑まれた。

「僕にとって、リーシャは大事な人です。だからこそ、言えなかった。言えば、悲しむでしょう?僕がアカツキに行ってポイントを貯めて呼び寄せる事ができるのは家族だけ。シルベットは元から家族なので問題はありません。なら、リーシャは?と考えた時に思ったんです。家族でないなら、家族にしてしまえばいい。そうすれば、リーシャもアカツキに呼び寄せられると」

ゴーシュは真剣な顔をしていた。私を想ってくれているのが伝わってくる。私が愚かだった。自分の事だけ考えてばかりで、ゴーシュの気持ちすら知らず…。申し訳なくて、俯いてしまう。そんな私の両手をぎゅっと握ってくれたのが見えて、私は顔を上げた。

「結婚していただけますか?」

少し頬を赤く染めて告げられるプロポーズの言葉。私もつられて赤くなっていくのが、自分でもよく分かった。返事なんてもちろん決まってる。

「はい、喜んで」

嬉しくて嬉しくて、泣きそうになりながらも、しっかりと返事をした。

「愛してますよ」

「私も愛してるよ」

ゴーシュは優しく微笑みながら、そっと指輪を填めてくれる。そして、重なった唇。深く深く口づけされ、私はただただゴーシュに溺れていく。どれぐらい時間が経ったのか、いつの間にやら唇は離れて、私は抱きしめられていた。

「とりあえず、館長に報告に行きましょうか」

「え?何で館長?シルベットじゃないの?」

ふと思った疑問を口にすれば、何を言ってるんですかと逆に呆れられてしまった。

「職場結婚の場合、上司に報告しないといけません。シルベットには夕食の席で伝えます。さあ、善は急げと言いますし」

行きますよとゴーシュに腕を引っ張られ、館長室に連れられて行く。途中、心の準備ができてないと訴えてみたが、あっけなく却下されてしまった。

その後、館長室で館長に結婚する事を報告すれば、からかわれて散々な目にあった。でも、二人揃って休みが貰えたのはラッキーだと思う。また、シルベットに結婚を報告した夕食の席では、彼女にお義姉ちゃんと呼ばれて、とても感激した。

ゴーシュがアカツキ行っちゃうのは、今でも悲しいし寂しい。だけど、いつか必ずシルベットと一緒に呼び寄せてくれる。私、待ってるからね。




そばにいたいから

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これが初めて書いた夢小説です。

そもそもの書くきっかけは、ゴーシュがアカツキ行く時に、みっともなくても行かないで!と縋るヒロインを見たかったというのがあります。

そこで、行かないで!と言えるぐらい親しい間柄といったら恋人、そこまで縋る理由は過去につらい出来事があってゴーシュに依存してるから。といった感じに、うちのヒロインができあがったわけです。

まあ、実はこれも実話ネタだったりしますけどね。

2010.07.28 up

おまけ
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