「心弾装填、藤槍!」

「何なんだ、これは!?」

ところが、私が心弾を撃った途端、誰かの大きな声が聞こえた。え、この声ってまさか…?と思っている内に、サンダーランド博士がすごい形相でこちらに走ってくる。

「サンダーランド博士、こんにちは」

「フィゼル!お前が犯人か!?」

私の前までやって来た博士はゴーシュの挨拶すら無視して、私に掴みかからんばかりの勢いで問いつめてきた。

「えっと…」

「お前のどろっとした重たいこころが流れ込んできたぞ!一体何の恨みがあって、この私に心弾を撃ったのだ!?」

その勢いに後ずさると、さらに博士の顔が間近に迫ってくる。怖くなった私はとうとうゴーシュの後ろへと隠れた。

「すみません、博士。今ちょうど回復心弾の練習をしていたものでして…」

「回復心弾だと…?」

そんな私に代わってゴーシュが事情を説明してくれた。でも、それを聞いた博士からはぎろりと効果音がしそうなぐらい睨まれ、思わずゴーシュの制服の袖をぎゅっと掴む。

「これのどこが回復心弾だというのだ!!こんな危険極まりないものを撃たれては、助かるものも助からなくなるではないか!」

「………」

博士のものすごい剣幕に対して、私は何も言えずに黙るしかなかった。心弾当てちゃったのは悪いけど、何もこんな言い方しなくたって…。

「まあまあ、博士もそれぐらいに…」

「スエード、すまないが少し黙っていてくれ。これだけはフィゼルに言わないと、私の気が済まない」

黙り込んだ私を見るに見かねたのか、途中でゴーシュが間に入ろうとしてくれたけど、博士はそれを認めなかった。私は再び博士の鋭い眼光に晒される。

「そもそも回復心弾というものは、優しさや慈しみといったこころを込めて撃つものだ。お前の心弾にあるのは、自分勝手な好意の押し付け。それで、こころを回復させようなど甚だおかしい。自分の向き、不向きをよく考える事だな」

それだけ言って、博士は白衣を翻しながら去っていった。残された私はいうと、ゴーシュにきつく抱きつき顔を埋める。

「リーシャ?大丈夫ですか?」

「…私、もうやめる。回復心弾撃つのはあきらめるよ…」

「リーシャ…」

泣き出しそうになるのを堪えていたら、声が震えてきた。あそこまではっきりと言われて、平気なんかじゃない。でも、泣くより先に伝えなきゃ…。

「ゴーシュ、今日は付き合ってくれてありがとう。それと、危ない心弾撃っちゃってごめんなさい…」

「何故リーシャが謝るのです?僕が撃てと言ったんですよ」

練習に付き合ってくれた事へのお礼と心弾を撃ってしまった事への謝罪を伝えれば、上からゴーシュの優しい声が降ってくる。

「でも、私の心弾は危険極まりないって…」

思い出すのは、さっきの博士の言葉。自分勝手な好意の押し付けだと言われた。私はただ、好きって気持ちを込めただけ。でも、それは相手にとっては危ないものだった…。

「僕なら平気ですよ。リーシャと付き合う内に慣れましたから。それより、今日はもう帰りましょう」

「うん…」

いくらゴーシュがそう言ってくれても、私がゴーシュに危険な心弾を撃ち込んだ事に変わりはない。私は落ち込んだまま、ゆっくりと足を動かし始めた。

「………」

「………」

無言の中を歩いていく私とゴーシュ。いつもだったら、私がお喋りするんだけど、今日はそういう気分じゃない。そんな時、不意にゴーシュが足を止めた。

「ゴーシュ?どうしたの?」

「リーシャ、この後に何か予定はありますか?」

不思議に思って彼を見上げれば、思わぬ事を質問される。

「ううん、特には何もないよ。家に帰って夕ご飯作るぐらいだし…」

「今からシナーズへ寄りませんか?一つぐらいならパンを買ってあげますよ」

素直に今日の予定がないと答えると、ゴーシュは柔らかく微笑みながら私をシナーズに誘ってくれた。

「…いいの?」

「ええ。今日はよくがんばりましたからね」

「ありがとう、ゴーシュ!私、シナーズのパン大好き!そうと決まったら、早速シナーズへ行こうよ!」

大好きな人の優しい気遣いが嬉しくて、私はゴーシュに抱きつく。そして、彼の腕を引っ張りながら、足取り軽く歩き出したのだった。




向き不向き

―――――
回復心弾を撃とうとがんばったヒロインでしたが、最終的にあきらめました。

博士にあそこまで言われたら、ヒロインももう二度と回復心弾を撃ちたいとは言わないでしょうね。

2012.09.17 up
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -