それから一週間が過ぎた。
「はあ…。今日が誕生日なのに、何も見つからないなんて…」
大きなため息が出てくる。そう、今日はゴーシュの誕生日。でも、彼への誕生日プレゼントを見つけられてはいなかった。
「待ち合わせまで、あと1刻…。でも、きっと見つかるはず」
私はくじけそうになるけど、気合いを入れてまた歩き出す。
「これは…」
小さな路地をしばらく歩き続けて、ふと足を止めた。目線の先には、控えめな装飾が施された銀色の懐中時計がショーウインドーの中に置かれている。
「うっ…」
よくよく見ると、隣に1万リンと書かれた値札が小さいながらもしっかりとその存在を主張していた。た、高い…と思ったのが、正直な本音。でも、その時計に抱いたイメージが何故かゴーシュと重なって…。
「すみませーん」
気が付いたら、私はそのお店の扉をくぐっていた。
「はあ…、はあ…!」
プレゼント用に包んでもらった懐中時計を大切に鞄に入れて、私は待ち合わせ場所へ向かって走っている。
「すっかり遅くなっちゃったよ…」
誰に言うわけでもないけど、何となく零れる独り言。あ、あそこの角を曲がって、走っていけば…。
「ゴーシュ!」
私が待ち合わせ場所に到着した時、もう既にゴーシュはそこで待っていた。
「リーシャ」
「お待たせ!」
顔を上げて笑ってくれるゴーシュに勢いよく抱きついて、私は満面の笑顔で口を開く。
「ゴーシュ、お誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます、リーシャ」
嬉しそうなゴーシュから一旦視線を外して、鞄からプレゼントを取り出した。そのまま、彼の前に差し出す。
「これは…」
「はい、誕生日プレゼント!」
「ありがとうございます。今開けてもいいですか?」
「もちろん!」
受け取ってくれたゴーシュは包みを丁寧に開けていく。
「懐中時計?」
「うん、ゴーシュにぴったりだと思ったの。これなら、いつでも持ち歩いてもらえるしね」
ゴーシュが中に入っていた懐中時計を取り出す様子を見つめながら話していく。
「なかなか良い物が見つからなくて大変だったんだよ。ついさっき、やっと見つけてきたの」
「もしかして、僕の誕生日プレゼントを探すために、夜遅くまで出歩いていたんですか?」
私の言葉で、今までの私の行動理由が分かったらしい。さすがゴーシュだね。
「うん。せっかくプレゼントするなら、私が納得した物をあげたいじゃない。だから、ずーっと探してたんだよ。気に入ってくれた?」
だから、私は補足するように説明する。大好きな人へのプレゼントは、絶対に妥協したくないもの。
「ええ、とても気に入りました。大事に使わせてもらいます」
ふわっとした笑顔でそう言ってから、懐中時計を大事そうに懐へと仕舞うゴーシュ。
「よかったー。ゴーシュが喜んでくれて、私も嬉しい」
その笑顔が見れただけでも、がんばって探し回ってきた甲斐があったよ。今度、レイラにもお礼しなくちゃ。何だかんだで、ずっと付き合わせちゃったし。
「リーシャ。これからは、僕がいない時に夜遅くまで出歩かないで下さいね。何かあったのかと心配したんですから」
「はーい」
ゴーシュの言葉に、素直に返事をしておく。心配かけちゃったのは事実だしね。
「じゃあ、行きましょうか?」
「うん」
さり気ない仕草で差し出されたゴーシュの手を取って、私達は並んで歩き出した。
「でも、本当によかったの?ゴーシュのお誕生日なのに、私なんかが夕食をご一緒しちゃっても」
「何言ってるんですか。シルベットも会いたがってますし。何より、僕がリーシャと一緒に過ごしたいんですよ」
ふと気になった事を質問したら、ゴーシュは繋いでた私の手を引っ張る。そのまま、ぎゅっと抱きしめられた。
「ありがとう、私もゴーシュと一緒に過ごしたいよ」
私も同じように抱きしめ返して、内心で願う。また来年も、こうしてゴーシュの誕生日を祝えますように。
大好きな人への贈り物
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ゴーシュのお誕生日プレゼントを探す話です。ぎりぎりでも見つかってよかったですね。
私の中で、銀色の懐中時計はゴーシュにぴったりだと思います。アニメで出てこなかったので、ヒロインにプレゼントしてもらいました。
2010.11.11 up