「ゴーシュ」

「何ですか?」

私はソファに座るゴーシュの膝の上に乗って、彼の首に手を回した。真正面からじっと見つめる。

「ちゅー、してもいい?」

「いいですよ。でも、わざわざ聞かなくてもいいのでは?」

「だって、嫌がられたら悲しいもん…」

今度は悲しくなってきた。私はこんなにゴーシュの事が大好きなのに、ゴーシュは違うのかな…?

「そんな悲しい顔しないで下さい。僕は嫌がったりしませんよ」

「ゴーシュは私の事、好き?」

この問いかけに、ゴーシュはちゅっと音を立てて唇と唇を重ねた。離してから、優しく笑う。

「もちろん、好きですよ」

その笑顔を見て、ほんわりと暖かくなる私のこころ。えへへと笑いながら、私からもちゅっと唇を重ねる。

「私も好きー」

すぐに離して、両方の頬にも唇を当てていく。そのまま彼のネクタイを緩めて、カッターシャツのボタンを上から数個ほど外した。

「えへへ、外しちゃった」

露わになった首筋にも、ちゅっ、ちゅっと唇を落としていたら、上から嬉しそうな彼の声が聞こえる。

「今日は積極的ですね」

「嫌?」

「まさか。嬉しいですよ」

不安になってじっと見つめると、優しく頭を撫でられた。その感触が気持ちよくて、ふにゃーと目を細める。

「ゴーシュが嬉しいと、私も嬉しい」

すりすりとゴーシュのはだけた胸にすり寄って、そこにもちゅっと唇を当てた。

「そうだ!」

ふと、いい事を思い付いて、私はくすくすと笑みを零す。

「リーシャ?」

不思議そうに私を呼ぶゴーシュの胸板を強く吸ってみた。すると、彼の感じたような声が聞こえる。顔を離せば、白い肌に映える赤い痕が目に入る。私がつけたんだと思うと、嬉しくなってきた。

「ゴーシュは、私のなのー。他の誰にも渡さないんだから」

ぎゅーっと抱きついて、ゴーシュの耳にもちゅっと唇を押し当てる。今度は、彼の胸に顔をくっつけて、大好きな彼の匂いを胸一杯に吸い込んだ。

「ゴーシュの匂い、大好き。こうしてると安心するの。幸せー」

ただ、彼という存在だけを感じる幸せな時間。あ、また頭を撫でてもらえた。嬉しいなー。

「リーシャ」

しばらく幸せを実感していたら、不意に優しく名前を呼ばれた。でも、このままでいたいから、私は返事をせずに寝たふりをする。

「起きて下さい、リーシャ」

「んー…」

肩を揺さぶられるけど、寝たふり寝たふり。

「仕方ないですね」

その言葉と共に、私の体が持ち上げられた。この体勢からして、おそらく横抱きにされてるんだろうなと思う。ゴーシュがゆっくりと歩き出した。しばらく歩いていたら、どこかに優しく降ろされる。この感触だと、私のベッドかな。

「おやすみ、リーシャ」

そう言われて、唇と唇が触れる感触。だけど、すぐに離れてしまった。内心で残念に思う。もうちょっとしてくれてもいいのに。

「いい夢を見て下さいね」

でも、何回か頭を撫でられている内に、私は本当に眠ってしまった。



翌朝、私は鈍い頭痛と共に目を覚ました。

「頭痛い…」

のそのそと起き上がり、右手で頭を押さえる。

「あれだけハイペースに飲んだのですから、二日酔いも当然です」

すぐ近くからかけられた声に驚いて顔を上げれば、コップを片手に持ったゴーシュが私のベッドに腰掛けていた。

「はい、お水飲んで」

差し出されたコップを受け取り、お水をごくごくと飲んでいく。少しだけ頭痛が楽になったような気がした。

「ありがとう」

「だから、お酒は飲んでも呑まれるなと言ったんです。これに懲りて、お酒は控えて下さいね」

私がコップを返してお礼を伝えれば、ゴーシュは苦笑いしながら私を窘める。全くもってその通りだから、素直に頷いた。

「特に、今後は僕以外の前では絶対に飲まない事。いいですね?あんな可愛い姿は、誰にも見せたくありません」

「あう…」

言われた言葉に、昨夜の事が一気に思い出され、私は恥ずかしくなって顔を伏せる。私からあんな事するなんて、恥ずかしすぎるよ…。

「あとですね、僕は満足してませんから、今夜はそのつもりで」

「え?」

思わぬ事を言われて顔を上げると、何故か満面の笑顔を浮かべるゴーシュ。今夜はそのつもりって、まさか…。

「それより、早く支度しないと遅刻しますよ?」

指摘されて時計を見れば、一気に顔が青くなる。やばい、このままじゃ遅刻しちゃうよ!私は大慌てでハチノスへ出勤する支度をするのだった。




酒は飲んでも呑まれるな

―――――
酔ってちょっぴり大胆になったヒロインでした。私の中では、ゴーシュはお酒に強いイメージがありますね、何故か。

まあ、これも実話が元ネタだったりします。

実際の飲酒は二十歳になってからですよー。

2010.10.13 up
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