「今日はハチノス寄ってからアカツキ行くの?」

シルベットが用意してくれた朝ご飯を食べながら、私はゴーシュに今日の予定を質問する。

「いえ、ハチノスには寄らずに直接アカツキへ行きます」

「そっか。じゃあ今日は一緒にお見送りに行こうね、シルベット」

「よろしくね、お義姉ちゃん」

ゴーシュの返答を聞いてから、シルベットに声をかければ、彼女は可愛らしい笑顔で頷いてくれた。

「リーシャ、それだと遅刻しますよ?」

「大丈夫だよ。今日は半日お休みもらったから」

さすがにここしばらくお休みが多かったから、一日のお休みをもらうのは無理だった。スエード家へ引っ越しするために、お休みもらってるしね。



アカツキへと続く道がある、ユウサリ中央の出口までやってきた。そこから先に行くのはゴーシュとロダで、私とレイラとシルベットはお見送り。

「お兄ちゃん、体に気をつけて元気でね?」

「シルベットも、リーシャと仲良く元気に過ごすんだよ?」

シルベットが涙を流しながら、ゴーシュと抱き合うのをぼんやりと見つめる。兄妹じゃない私は、あの中には入れないから。

ふと視線を横に移せば、レイラとロダも別れを惜しんでいるようだった。何だかんだで、私とゴーシュはよく一緒に配達していたから、彼女達も何気に仲がいいんだよね。無口なレイラと感情表現豊かなロダ。この組み合わせも、しばらく見納めで何となく淋しいな。

「リーシャ」

不意に名前を呼ばれて顔を上げれば、いつの間にか目の前にはゴーシュが立っていた。さっきまで抱擁を交わしていたシルベットは、もう彼から離れてこちらを見ている。

「なるべく早く呼び寄せますから、それまでシルベットを頼みます」

ゴーシュがぎゅっと私を抱きしめる。胸いっぱいに広がる彼の匂いに、私は昨夜の気持ちとは裏腹に泣き出したくなってしまった。

「こっちは大丈夫だから心配しないで。それよりも、私が心配なのはゴーシュだよ。無理も無茶も平気でするんだから」

泣きたい気持ちを堪えて、同じようにゴーシュを抱き返す。声が震えてない事を祈った。お願いだから、泣きそうになってる私に気づかないで。

「そこまで無理も無茶もした覚えはないんですが…」

困ったように苦笑いするゴーシュを見つめる視界がどんどん滲んでいく。泣き出してしまう前に、これだけは伝えなきゃ。

「もう、自覚がないんだから。ゴーシュに何かあったら、私達が悲しむのを忘れないでね」

「肝に銘じておきますよ。だから泣かないで下さい、リーシャ」

よしよしと頭を撫でてくれる手の優しい感触に、私の涙は溢れて止まらなくなる。

「そんな事言ったって…」

「僕はリーシャの笑顔が好きです。だから、笑ってくれませんか?」

ゴーシュのお願いに、私は目に溜まった涙を服の袖で拭って、精一杯の笑顔を浮かべた。きっと、涙で顔がぐちゃぐちゃになってるけどしょうがないよね。それに、そろそろゴーシュはアカツキに行かなければならない時間だ。

「ゴーシュ、ずっと大好きだよ」

だから、最後に想いを伝える。私の気持ちが少しでも彼の支えになるように。

「僕もリーシャが大好きですよ」

ゴーシュはその言葉と共に、重ねるだけのキスをしてくれた。そして、力強く私を抱きしめてから、すっと離れていく。あっ…と思わず腕を伸ばしたけど、その手が彼に届く事はなかった。

「それでは、二人とも行ってきますね」

そう言って、ゴーシュは振り向かずにロダと一緒にアカツキへ向かって歩いて行く。

「行ってらっしゃい、気を付けてね」

「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」

答えるように手を挙げたゴーシュの後ろ姿が見えなくなるまで、私とシルベットはただずっと見送り続けていた。

その半年後、彼がこころを失い行方不明になって、テガミバチを解雇されてしまうとは夢にも思わずに。




旅立ちと別れ

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旅立ち前夜と、その朝のやりとりを書きました。

初期の設定では、この時ヒロインにゴーシュの子供ができてましたが、さすがに需要ないと思われたので、その設定は削除しちゃいました。

2010.09.08 up
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