あれから、私とゴーシュは両親と一緒にお茶をしてから別れた。帰り際、早く孫を見たいわというお母さんと、まだ見たくないぞというお父さんが、相変わらず過ぎて笑みがこぼれた。

「お父さんとお母さんにゴーシュを紹介できてよかったー」

「優しいご両親でしたね」

私がほっと胸をなで下ろせば、ゴーシュはふわっと笑ってくれる。ほのぼのとした会話をしながら歩く帰り道。

「大変だよ、リーシャ!」

後ろから慌てたおばさんの声が聞こえてきた。何事かと思って振り向くと、おばさんは更に言葉を続ける。

「鎧虫が来たんだよ!」

その言葉に、私はさっきまで歩いてきた道を思いっきり駆け出した。



「フィゼル夫妻が鎧虫に…!」

やっとの思いで村に辿り着けば、両親が鎧虫に捕らわれるという絶望の光景が目の前で繰り広げられていた。

「心弾装填、藤槍!」

込み上げてくる怒りのままに、鎧虫へ向けて心弾を撃つ。だけども、鎧に弾かれ傷一つ与えられない。何度かそれを繰り返して、息を荒くしながらも心弾銃を構えたその時。

「心弾装填、黒針!」

見慣れた黒い光が鎧虫の隙間に入っていき、あっさりと鎧虫は駆除された。

「闇雲に撃っても、鎧虫は駆除できませんよ。それぐらい、リーシャも分かっているでしょう?」

ゴーシュが後ろから声をかけてきた。でも、今の私にはそれを聞く余裕がない。慌てて両親を探したら、村の人達に囲まれていた。

「お父さん、お母さん!」

急いで駆け寄れば、虚ろな瞳の両親の姿が目に入る。どうやら、遅かったらしい。両親は鎧虫にこころを喰われていた。その事実に足の力が抜け、ふらりと倒れそうになる。それに気づいたゴーシュが後ろから支えてくれた。

「ありがとう…」

「大丈夫ですか?」

そのお礼を伝えれば、手がぎゅっと握られる。手のひらから伝わってくるぬくもりは、わずかに安心させた。私は独りじゃない。

「お前等のせいだ!」

「鎧虫が来たのは、お前等テガミバチが来たせいだ!」

そんな時、村の人達に吐き捨てるように言われた言葉。怖くなって思わず、ゴーシュの手をぎゅっと握る。

「鎧虫は人のこころに集まる習性があります。僕達が連れてきたわけじゃありません」

「今すぐこの村から出て行け!」

「テガミバチなんか、二度と来るな!」

ゴーシュがきっぱりと反論すると、村の人達から更に冷たい言葉を浴びせられた。

「行こう、ゴーシュ」

「ですが、リーシャのご両親が…!」

その場にいるのがつらくなってきた私がゴーシュの手を引っ張れば、彼は納得のいかなさそうな顔をしている。

「私なら、大丈夫だから…。父と母をよろしくお願いします」

ゴーシュを宥め、こちらを睨みつけてくる村の人達に頭を下げてから、ゆっくりと歩き出した。



私とゴーシュはしばらく無言で歩き続けていた。振り返っても村が見えない所まできて、私の足が止まる。

「どうしました?」

急に立ち止まった私を疑問に思ってか、ゴーシュが私に声をかけてきた。その声を聞いて、私はもうこれ以上我慢できなかった。

「ゴーシュ!」

勢いよく彼に抱きついて、うわあああん!と泣き始める。

「お父さんと…お母さんが…!」

「今までよくがんばりましたね」

泣きながらつらい気持ちを吐き出せば、ゴーシュはぎゅっと私を抱きしめて背中をさすってくれる。そんな状態でかなり長い時間泣いた私は、泣き疲れて眠ってしまった。



はっと目が覚めて視界に入ってきたのは、ゴーシュの心配そうな顔。頭を撫でられる感触が気持ちいい。

「大丈夫ですか?」

「うん、何とか…」

そう答えて目を瞑ると、脳裏に浮かぶ虚ろな瞳の両親と、こちらを睨みつける村の人達の姿。もしも、私がもっと早くあの鎧虫を駆除できていたら、両親はこころを喰われる事なく助かったんだろうか。自分の無力さが恨めしい。今までいっぱい鎧虫を駆除してきたのに、肝心な時に役立たないなんて。

「あまり思い詰めないで下さいね」

自己嫌悪に苛まれている私の耳に届いた言葉。たぶん、それは無理だ。だって、私が両親をあんな目に遭わせたようなものだから。

「ねえ、ゴーシュ」

「はい、何でしょうか?」

起きあがって呼びかければ、いつもの笑顔で答えてくれるゴーシュ。

「もしも、もっと早く鎧虫を駆除できていたら、両親は助かったと思う?」

「時が戻らない限り、もしもの話なんて意味はありませんよ。それよりも、今は早くその悲しみを乗り越えていかないと」

痛いほどの正論だった。もしもの話を考えたって意味はない。それでも考えたくなるような悲しみに満ちた現実を乗り越えろだなんて…。

「私一人じゃ無理だよ…。今まで助けてくれた両親はもういないのに…」

つい弱音を吐いてしまう。両親という絶対的な支えを失った私は弱い。一人では現実に立ち向かいたくなくなるほどに。

「僕が傍にいます。ずっとリーシャの傍にいると約束しますから」

その言葉と共に、ゴーシュが私を強く抱きしめた。伝わるぬくもりが、私のこころを少しだけ暖かくしてくれる。

「本当?本当にいなくなったりしない?」

「ええ、本当ですよ」

確かめるために問いかければ、私を抱きしめる力が更に強くなる。ゴーシュに痛いほど強く抱きしめられ、私は悲しみを乗り越えていく事を決意した。ただ、自分を責める気持ちはいつまでも残り続けるだろうけど。



人は一人じゃ生きていけない。誰かと支えあって、助け合って生きているんだ。だから私は、いつかゴーシュを支えられるようになりたい。あの時、ゴーシュが私を支えてくれたように。




交わされた約束

―――――
ヒロインの心の支えとなる約束が、この時に交わされました。ずっと傍にいると…。

そして、これがヒロインがゴーシュに依存するきっかけでもあります。

2010.08.09 up
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